フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ [Blu-ray]



 「尻たたき」なんてどうでしょう??



 「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」50の顔(影)を持つグレイ、と直訳できるが分かり難く長い。私が邦題をつけるなら「尻たたき」だろう(笑)全世界でヒットした小説の映画化だが物語の展開、メイン2人の感情・行動がなんとも鈍く、ストレスの溜まる作品だった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 今作のマイナス点はふたつ。ひとつは物語の転がりの悪さだ。開始10分程でアナとクリスチャンは出会う→しかもその時点で2人は互いを意識し合い、且つ好印象をうける。そこから最後まで(全体を120分ならば)残りの110分は、「本当の俺は危険だ、近づくな。」「でも、契約結んだらいいよ。」「契約結ぶのは保留。」「でも、本当の貴方が知りたいの。」の繰り返しである。

 契約しないとセックスやSMプレイをしないかといえば、ちょいちょいやったりする。「契約なんて関係ない。」と言ってキスをしたり、「俺は女とは同じベットでは寝ない」とか言いながら一緒に寝たりする。思考と行動が矛盾してなんとも腑に落ちないのだ。

 ふたつめのマイナスは、恋愛映画にしてはカップル間の障害が極端に低い点だ。金持ちのCEOと普通の大学生の恋。出会って直ぐに好意を抱き、半同棲まで始める。周囲の反対もなく、社会的な身分の差も関係ない、恋敵も居ない。「フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ」における2人の障害はクリスチャンの偏った性癖だけなのだ。その障害=ストレスのみで120分は流石に辛い。そのような物語の結末に、用意されたのは以下のやりとりだ。


「契約は結ばないけど、とりあえず本当の貴方を見せて。」
 ↓
 尻を6回たたく。
 ↓
「痛い、嫌い、別れる!!」
 ↓
「車返して!!」→「車売った。後からお金、返金する。」
 ↓
 エレベーターのドア前で「アナ」、「クリスチャン」
 ↓
 Fin


 絶句してしまった。続編ありきの幕引きだろうが、単体の映画の締めとしてはなんとも急転直下である。R-18、官能描写が話題となったが、他の作品より秀でているのは”画”のみであり、映画の根幹であるキャラクターの肉付けや展開がおざなりになっては本末転倒だ。鑑賞中、集中力が途切れて何度も腰やお尻が痛くなった。辛い思いはアナだけではなく、私もそうだった。
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(2014/07/02)
イーサン・ホーク、ジュリー・デルピー 他

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映画史に残るラブストーリー


 シリーズ3作目だが改めて思うことがある、今作ビフォアシリーズこそ恋愛映画、もしくはラブストーリーとして、私のなかではナンバー1であるということだ。

 そんな素晴らしい映画に水を差すのは、本作「ビフォア・ミッドナイト」の予告編に「全世代の女性に贈る恋愛映画の金字塔シリーズ」というフレーズがあること…。今シリーズは、男女間の気持ちの齟齬を会話を通じて平等に描いているのに、女性にと限定されるのは到底納得がいかない。事実、私は学生の頃よりこのシリーズの熱烈なファンであり、(1作目から数え)18年越しの最新作も当然心待ちにしていたのだ。仮に上記のようなコピーを謳うことで、興行収入が伸びるという理由が存在するにせよ、首を長くして待ちわびた極東の30代男性は、ものすごく寂しい気分となった。いやいや男性である自分にも贈ってくれよと(笑)自分が予告編集者なら全身全霊で上記フレーズを止めていただろう。こんなに素晴らしい作品の間口を狭めたり、物語に対する誤解を招く行為は映画関係者として言語道断な行為では。映画や観客への愛情を感じない。

 「愛するということは相手を理解することではなく、理解しようとする姿勢そのもの」というテーマを、会話のみで表現する姿勢は3作目にしてさらに磨きを増していたように思える。映画の時間軸と実世界の時間軸がリンクする9年越しの物語。それぞれの作品に起承転結が存在するが、このシリーズ自体が大きな枠組みで編成されていると捉えることもできる。

「ビフォア・サンライズ」= 出会い(起)
「ビフォア・サンセット」= 進展(承)
「ビフォア・ミッドナイト」 = 危機(転)

映画の枠を越えた9年越しの実験、いや祭り。ひとつのライフワークと表して良い唯一無二の作品群だ。




*****以下、ネタばれ注意*****




 上記でも述べたように、今回の見所は転=危機の到来である。1作目、2作目の限られた時間のなかで互いを知っていくという甘いロマンスではない。長い時間を共に過ごし、それぞれの嫌な部分も分かり家庭環境も変わった末の会話なのだ。当然2人の間に新鮮味はなくなっており、おっぱいを丸出しにして電話しようがパートナーを目の前に用を足そうがおかまいなし、恥や虚栄心は遥か昔になくなっていることが観てとれる。

 20分にも渡る長いホテルでの口喧嘩は圧巻で、物語をどのように着陸させるか注目したが、そこで1994年の出会いの際にも用いたタイムマシンの話が登場する。素直に謝らず他の誰かを演じて歩み寄る、正に「愛するということは相手を理解することではなく、理解しようとする姿勢そのもの」をそこに見いだした、素晴らしいエンディングではなかろうか。イーサン・ホークの歩みに、とぼけた感じで応えたジュリー・デルピーがなんともキュートだ。

 また本作では、互いを理解する姿勢にも必ず終りが訪れることを示している。ゼニア・カロゲロプーロが語るエピソードに、それまで感じなかった最期をはっきりと見せるのだ。「過ぎゆく日々」に乾杯する一同、物事の有限を匂わせる切ない瞬間だ。



■関連作品■
恋人までの距離/ビフォア・サンライズ ★★★★★
ビフォア・サンセット ★★★★★
その土曜日、7時58分 ★★★★
フッテージ ★★
アーティスト コレクターズ・エディション [Blu-ray]アーティスト コレクターズ・エディション [Blu-ray]
(2012/10/17)
ジャン・デュジャルダン、ベレニス・ベジョ 他

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 「タイタニック4D」が公開されている、という記事を目にした。立体視3Dの上をいく4D(4DX)では、場面に合わせて座席が傾いたり、香りが劇場を包むといった効果が追加されているらしい。沈没する様をリアルに体感しても怖い気がするが、映画もここまで進化したのかと驚くとともに、どこか辟易させる気分にもなる。
 
 一般的に相手に情報を伝える作業、コミュニケーション等は、より多くの感覚に訴えかけることでその伝達密度が増すと言われている。映画もそのような進化を遂げることで製作側のメッセージを強く享受できるようになるのか??2011年の映画祭を瞬く間に席巻した「アーティスト」の評判や内容を加味すると、必ずしもそうではないことが分かる。

 白黒の映像、台詞なしのサイレント、といった制約を乗り越えても伝わってくるキャラクター達の感情。少ない情報量でもそこに注視すること、または作り手に愛情があるからこそ見えてくるものもあるはずだ。時代に逆行した制約ばかりの「アーティスト」はそれらに立ち返るための為の、貴重な試金石となったのではないだろうか。
テーマ:映画感想
ジャンル:映画