潜水服は蝶の夢を見る ★★★

潜水服は蝶の夢を見る 特別版【初回限定生産】潜水服は蝶の夢を見る 特別版【初回限定生産】
(2008/07/04)
マチュー・アマルリックエマニュエル・セニエ

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 「潜水服は蝶の夢を見る」を観ている途中で、どことなく「海を飛ぶ夢」を思い出した。全身麻痺(状態は違うが)ベットでの一画から見える視界が全て、という点が共通だったからだと思う。しかし扱うテーマが異なっていた。向こうが本人と周囲の視点から「尊厳死」について鋭く言及した内容に対し、今作はジャン=ドミニクの主観で展開され、現在自分が置かれている状況でなにができるのか、その精神力を描いた物語である。

 映画の冒頭からジャンが見渡せる視界のみに画面が限定されており、時折挿入シーンがあるものの、現在の彼の姿が分かるのは、上映開始から40分近く経った頃だ。他人とのコミュニケーション手段が瞬きだけ、"開くか"か"閉じる"のみでしか伝達手段がないこと、単語を想いを伝えることがどれほど大変なものかを鑑賞者も体感することになる。彼が「死を望む」と伝えたのは印象的だったが、そこから考えを変え本を出版する決意に至ったことは頭が下がる想いである。

 閉じ込め症候群(ロックトイン・シンドローム)という稀な病例を題材にしながらも、そこまで感傷的にならないのはヤヌス・カミンスキーが紡ぎだした映像美にあった。ジャンの頭の中で構築される空想のシーンは、ベットでの束縛を離れ優雅に世界を駆け回るイメージだ。それは壮大で極彩色にあふれ、無限の広がりと心の豊かさを表現している。


潜水服は蝶の夢を見る潜水服は蝶の夢を見る
(1998/03/05)
ジャン=ドミニック ボービー

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 またジョン自身の描き方が、人間味にあふれていたこともひとつはあるだろう。彼の視点・カメラワークが女性の胸元や太ももに集中することや、献身的にサポートする妻が目の前にいるのに、愛人との電話で気持ちを伝えるシーンなど、特異な状況下の人間を美化するのでない正直な演出は、ジョンとの心理的な距離を縮め鑑賞中のテンションを下げない。

 「想像力と記憶で僕は"潜水服"から抜け出せる」マチュー・アマルリックのナレーションだが、これが物語の全てである。たしかに彼は社会的に成功者で裕福な経済状態が、周りのサポートや本の出版に繋がったことには間違いない。しかし、このような究極の孤島のなかでの彼の思考や発想に学ぶことは多いだろう。

 誰にでも社会的な弊害や困難な状況が訪れ、自分のなかの潜水服に閉じ篭りそうにもなるが、そこから抜け出せる手段やその先の可能性は無限大に存在するのだ。そんな当たり前のことに改めて触れられ、鑑賞後は実に爽やかな気分になる。


■関連作品■
ミュンヘン ★★★
インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国 ★★★★
宇宙戦争 ★★★

[ 2008/07/05 00:00 ] ヒューマンドラマ | TB(0) | CM(0)

アフタースクール ★★★

アフタースクールへようこそ!―映画『アフタースクール』OFFICIAL BOOK (Gakken Mook)アフタースクールへようこそ!―映画『アフタースクール』OFFICIAL BOOK (Gakken Mook)
(2008/05)


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 派手な見せ場もないなか、最後までほどよいテンションで鑑賞できたのは、物語の細やかさと魅力的な俳優陣のお陰だろう。

 主役を務めた大泉洋は、大声をはるでも、大袈裟な動きでもない、その自然な存在感が良い。少し間をおいてボソボソと喋りかけるしぐさ「コーヒー牛乳を…」「もじゃもじゃって言うな!!」などちょっとした言い方が面白かった。堺雅人は良い性格過ぎて損をする人、佐々木蔵之介はひねくれた性格で裏世界に生きる人をそれぞれ好演している。本来役者がもっている雰囲気そのままの特徴をスクリーンに投影しているため、物語に馴染み易く、その先入観が様々なミスリードを誘う要因にもなっていた。




*****以下、ネタばれ注意*****




 「アフタースクール」という題名を聞いたときに、イントネーションからベタベタの感動物語だと想像していた。たしかに感動する箇所はあるが、今作はどんでん返しを楽しむことに重きを置いている。その「どんでん返し」という情報を鑑賞前に得ていたかどうかで印象は大きく変わる。

 逆転劇という情報をインプットした状態で観ると序盤の、大泉洋が簡単に佐々木蔵之介の言いなりになっている、その時点で怪しいと思ってしまうからだ。逆転劇があることを知ると、構えて鑑賞するためサプライズが響かない。逆に逆転劇があるから、それで興味をもって劇場に足を運ぶ人もいる。予告や宣伝のバランス加減の難しいところだ。

 ドタバタのコメディにもできそうだがそこを抑え、ほのかな愛情と悲しさを含んだのが「アフタースクール」特有の味付けだろう。特にネタばらしをした後の、大泉洋と佐々木蔵之介の会話、そして大泉洋と常盤貴子との会話で一気に人間ドラマが濃くなる。校庭を眺めながら、2人の背中越し画と併せてラストの見せ方は非常に巧い。人物の相関関係を理解した上で、2回目を鑑賞するとまた別の角度から作品を楽しめ、新たな発見があるのも嬉しいことだ。


■関連作品■
愛の流刑地 ★★
サマータイムマシン・ブルース ★★★★

[ 2008/06/13 00:00 ] ヒューマンドラマ | TB(1) | CM(6)

ゼア・ウィル・ビー・ブラッド ★★★★

ゼア・ウィル・ビー・ブラッドゼア・ウィル・ビー・ブラッド
(2008/08/20)
ダニエル・デイ=ルイスポール・ダノ

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 "ダニエル・デイ=ルイス!!"この一言に尽きる。物語・プロットを忘れさせ、1人の人間に対してこれほど魅せられる作品に出会ったのは久しぶりだ。現在商業ハリウッドに反抗するかのように、職人気質・メソッド演技を備えた俳優が居たことをまずは嬉しく思う。

 「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」では主人公(ダニエル・プレインビュー)の他、信仰と自我の言葉に溺れるイーライやプレインビューと行動を共にするH.W.など、面白いキャラクターは登場するが、今作はあくまでダニエル・プレインビューの物語である。その存在は地上よりはるか上にそびえる、油井やぐらのごとく圧倒的なものであり、他を寄せ付けず全てを支配していた。

 「群像劇」というレッテルを貼られたポール・トーマス・アンダーソンは、今作では多人数・同時平行というトリックを排除し、1人の男の一大叙事詩を見事に完成させている。それまでのイメージからの華麗なる脱却と監督の柔軟な創作性に、今回も強烈なパンチを喰らったな気分になった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 意外だったのは、ラスト20分ほどで時代と作品の空気が一変したことだ。「2001年宇宙の旅」のラスト、木星からとある部屋へとワープしたかのごとく、カリフォルニアの荒野から邸宅へと舞台が移る。それまでのダイナミックな画、夕陽を覗き込むような光はなく、狭く暗く異常な空気が漂うこの部屋はプレインビューの精神世界といってもいい。


ゼア・ウィル・ビー・ブラッドゼア・ウィル・ビー・ブラッド
(2008/04/23)
サントラ

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 H.W.と決別を交わし、狂気に満ちた彼はイーライを殺してしまう。数々の酒の瓶、ボーリング部屋や"ミルクセーキ"といった言葉がその倒錯性を助長させていた。それにしてもダニエル・プレインビューは興味深い人物である。誰とでも一旦は親しくするも、相手が少しでも利己的な態度にでると、一瞬にして距離を置き憎悪の対象となるのだ。

 なにが彼をそこまで追い詰めるのか、その過去に秘密がありそうだが本編で語られることはなかった。冒頭の採掘の過程から推測すると、長年1人でピッケルを片手に、穴を掘っているうちに"完全主義"ともとれる、それらの精神が研ぎ澄まされたように思える。いずれにせよ、このラストの一連のシーンはダニエル・デイ=ルイスをイメージする上で、長い間語り継がれる場面となるだろう。

 「I am finished」と言い、背中を丸め、力なく座り込んだプレインビューとそこに横たわる死体。ラストカットになって初めて「There Will Be Blood」というタイトルの意図がつかめた。


■関連作品■
ブギーナイツ ★★★★
パンチドランク・ラブ ★★★
リトル・ミス・サンシャイン ★★★
ミュンヘン ★★★

[ 2008/05/05 00:00 ] ヒューマンドラマ | TB(0) | CM(4)
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