フレンチアルプスで起きたこと [DVD]


フレンチアルプスで起きた怖いこと


 一昨年観た「ゴーン・ガール」は怖い映画だった。ただ「フレンチアルプスで起きたこと」はもっと怖い映画だと思った。「ゴーン・ガール」の怖さは振り切れている分、半分は絵空事、ある種のファンタジーだが、今作はリアルだ。自分を含め誰にでも起きうること、そして何よりも自身をコントロールできるか分からない、不明瞭な領域であるからこそ怖いのだ。

 原題の「FORCE MAJEURE」の意味は不可抗力であり正に主人公の行動そのものを指す。雪崩という自然災害から避難することは許されない手段ではないが、妻はそこを容赦なく追及していく。雪崩のその瞬間に何が起きたのかぼやかしていてもサスペンス映画として面白そうだが(夫は本当に逃げたのか、または妻の思い違いの狂言なのか)序盤でことの真実を固定カメラでじっくりと見せており、そこから人物の心の動きを描いたヒューマンドラマに終始している。




*****以下、ネタばれ注意*****




 今作はどのような着陸を見せるのか、家族4人並んでスキーをする姿を映して終わりかな、などと予想していたらもうひとつの展開が起きる。雪崩の次の災難はバスだ。ここで興味深いのはあそこまで、夫を追い詰めていた妻が子供を含む家族を置いて真っ先にバスを降りたということ。瞬間的な参事ではないため、ある意味では夫よりも糾弾すべき行動ではないだろうか。やはり人は瞬時の感覚には負けてしまうのだ。

 バスから降り、道路を歩く人々を正面から捉えたショットは、家族間・男女間の微妙な距離を示す。互いに”理解できない領域があることを理解”してバランスを保ちながらも生きなければ、という力強さと諦めが混在した不思議な印象を持つ画だ。
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セッション コレクターズ・エディション [Blu-ray]


セッションにより辿り着く、恐ろしくも感動的な瞬間。


 圧巻である。「セッション」は単なるヒューマンドラマではない、音楽教師と偉大な音楽家を目指す若者の奮闘を扱うが、よくある音楽スポ根映画、または青春映画とも違う。スリラーか、もっと言えばSM映画ではなかろうか。

 終盤、演奏会ステージ上のマイルズ・テラーの恍惚な表情に、今、射精しているだろうなと感じ、一方のJ・Kシモンズも教え子の開花に射精したに違いない!!と、思ったほどだ。…射精は若干言い過ぎだが(笑)それに近い状態にいたのは想像に難くないだろう。2人しか分からないシンパシー。紆余曲折の末、達観した次元に辿り着く、恐ろしくも感動的な瞬間だ。

 主人公、ニーマンのみの視点で進む物語、彼の感情は鬼共感フレッチャーの揺さぶりにより、劇中で何度もアップダウンを繰り返す。また展開としても師弟関係の構築・崩壊・復活??と絶妙な転がりを見せる為、鑑賞側もニーマン同様に(良い意味で)フラフラの状態となってしまう。

 多くの人が今作を「フルメタル・ジャケット」に準えるが、私はどことなく「ミザリー」の要素を想起させた。小説の内容が自身のイメージと異なることで激情したキャシー・ベイツはJ・Kシモンズを。その狂気から逃れようとするのが、ジェームズ・カーンなのだが、今作のニーマンはその狂気から逃れず、悪魔を自分に取り込む。優しい父親の抱擁を振り払いステージに戻る姿は、復讐を完遂させる悪魔のようである。例えるならマイルズ・テラーもキャシー・ベイツとなり、舞台上にキャシー・ベイツ扮するアニー・ウィルクスが2人居る状況。この世のカオスだ(笑)

 本作の魅力を語るうえで、マイルズ・テラーとJ・Kシモンズの熱演は外せないが、その2人以外にも、ニーマンの昇格によりメインドラマーを降ろされたネイト・ラングが気になった。特に嫌な奴でもなく、独特の佇まい。どことなくマチュー・アマリックに似ており大きな瞳が印象的だ。今後活躍が期待される、マイルズ・テラーやメリッサ・ブノワと併せて注目したい俳優である。


■関連作品■
JUNO/ジュノ ★★★
マイレージ、マイライフ ★★★
ヤング≒アダルト ★★★




奇妙な映画がもたらす奇跡


 「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」 変な題名である。そして、奇妙な映画だと思った。しかしこの奇妙な映画は、多くの人々を熱狂に陥れハリウッド映画の最高峰ともいえる、アカデミー作品賞まで受賞してしまったのだ。そう、「バードマン~」とは主人公リーガンのことでもあり、図らずも現実世界での事象と結果、そのものこそが”予期せぬ奇跡”ともいえないだろうか。

 大勢が支持するアカデミー作品賞ながら、存分に奇妙と思えた理由が大きく分けて2つある。

① ワンカットで進む物語
 本作はブロードウェイを舞台にした正味4日間の物語である。その間、カメラにカットはなく(カットがないように見せている)、ひたすら画面に登場する人物を追う構図を繰り返している。長回しといえば、古くは「ロープ」、近年では「トゥモロー・ワールド」「ゼロ・グラビティ」のそれに近い。

 ダイアローグでも観客がだれないよう、リーガンの上下する心象模様をアントニオ・サンチェスのドラムスコアで表現し、一定のテンションとリズムを保っていた。さらに高いテンションを維持しつつも、ダーレン・アロノフスキー監督の「レスラー」の如く、キャラクターの背中や無人の廊下に、物語の行間を与えることで程よい進行・展開を生み出している。本編では楽屋等で、意図的に鏡が多用されているのだが、そこには撮影カメラが一切、映りこまない。脚本・キャラクターの魅力以前に、この緻密なカメラワークと技量にまずは驚嘆してしまう。


② 現実世界とのリンク
「ブレアウィッチ・プロジェクト」に代表されるよう、本作での映像体験は擬似ドキュメンタリーにも近く、主観のショットがキャラクターとほぼ同じ高さにあることで、(特に)リーガンの動きと観客の体感が同調するかのような効果を与えていた。劇中と実世界の劇場が共有する奇妙なリンクのひとつだ。

 また本作のキャスティングが言わずもがなリアリティに溢れている。「バットマン」を演じていたマイケル・キートンがバードマンを。「インクレディブル・ハルク」を演じ、その後、降板したエドワート・ノートンが自由奔放な性格俳優を。「アメイジング・スパイダーマン」のヒロインを演じていたエマ・ストーンが、バードマンの支えとなる娘役を。「マルホランド・ドライブ」さらには現実でも下積み期間が長かったナオミ・ワッツが、これまた売れない役で出演する等々、現実と劇中の配役が絶妙にマッチしているのは明白な事実だ。

 さらには、現在ハリウッド映画のスーパーヒーローもの乱立を揶揄する台詞、ロバート・ダウニーJr.、マイケル・ファスベンダー他、多くの実名俳優が台詞に登場するなど正に”いま”を踏襲した設定となっている。





*****以下、ネタばれ注意*****




 このようにワンショットの構図+現実世界とのリンク、そして質の高い脚本を取り入れた本作は、奇跡的なバランス加減を維持して傑作へと昇華した。この唯一無二の体験は、映画史における発明でもあり、アンチハリウッドを謳った内容がアカデミー賞を獲得したことは、ひとつの事件といってもよいだろう。

 「バードマン」は文字通り、一度は死んだ男が、再び羽ばたくことができるのかを描いた作品である。リーガンに限らず誰しも自分の可能性を信じるが、いつしかその情熱を忘れ地面に横たわってしまう。ラストのエマ・ストーンの視線が物語るよう、人には何度でも上昇のチャンスがあるのだと、この映画は語っている。



■■関連作品■■
ロボコップ(2014) ★★
ゼロ・グラビティ ★★★★
アメイジング・スパイダーマン2 ★★