マルティナは海マルティナは海
(2004/02/27)
レオノール・ワトリング

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 「トーク・トゥ・ハー」で難しい役を見事に演じたレオノール・ワトリング、彼女が出演した作品とのことで期待をこめての鑑賞だった。実際レオノール・ワトリングは官能描写が多い今作でも、惜し気もなく身体を露出させ、ウリセスとの愛に悩む悲劇の女性を好演している。スペインの港町や海岸線など映像も綺麗なのだが、物語のせいか、淡白な展開のせいか、レオノール・ワトリングの魅力のみが印象に残ったほどだ。

 「マルティナは海」は古典的な文芸恋愛ものである。こんな先生は居ないだろうと言いたくなるほど、セクシーなオーラを放っていたウリセス役のジョルディ・モリャ。彼が国語の教師という設定もあってか劇中の台詞は詩的なものが多く、繰り返される文節は2人の行く末を暗示するものだった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 中盤までは割と飽きずに鑑賞していたのだが、事故死と思っていたウリセスが実は死んでおらず町に戻ってきた辺りから熱が冷めてしまう。まず彼が、正に今、海から上がってきたばかりと言わんばかりの格好、コントみたい(笑)しかもマルティナと再開しての一言目が「約束したマグロだよ」って、お前は浮気していて何言ってんだと突っ込みたくなる。またマルティナとやり直すために、使われていないアパートで隠居生活を始めるのだが何故か裸(笑)暑かったのだろうか??しかもこんな生活に耐えられないと言い出し、挙句の果てにはボートの帆が頭に直撃して死亡と良いとこなしである。

 あれだけ献身的に尽くしてくれたマルティナを裏切り、子供ができたら浮気、失踪、戻ってきてやはり好きだ、というのは虫が良すぎる。男性側の完全なエゴなのだが、本来兼ね備えている男性のメンタリティの弱さ性格が、ウリセスのキャラクター造詣にピタリとはまっているのかもしれない。


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トーク・トゥ・ハー ★★★★★
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バットマン [Blu-ray]バットマン [Blu-ray]
(2010/04/21)
マイケル・キートン、ジャック・ニコルソン 他

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 「スパイダーマン」「X-MEN」「ハルク」「スーパーマン」など近年、アメコミの映画化は活況を呈しているが、それらの元祖であり個人的に1番好きなコミックヒーローこそが「バットマン」である。暗闇に「BATMAN」のロゴが映し出され、ダニー・エルフマン作曲のオープニングスコアが流れると、「さぁ、映画を観るぞ」という童心に帰るような、不意に訪れる幸福感に包まれるのだ。バットマンは後にリターンズ、フォーエバー…とシリーズ化されていくことになるが、やはり今作が突出して良く出来ているようだ。「バットマン」の良さを一言で説明するのは難しいが、あえて言うなら混沌さにあると思う。

 ティム・バートンが描いた架空都市、ゴッサムシティは地下からのスチーム、サーチライトの光、異様な彫刻の像など、なんとも奇妙な造型の街並みであり、ダークな世界観の土台となっている。そのいびつな世界に蔓延る悪がジョーカーだ。オープニングクレジットでは、バットマン役であるマイケル・キートンよりも先にジャック・ニコルソンが表示されており、あまりにインパクトの強い風貌と破天荒な言動は正に”主役”級である。役者魂にスイッチが入ったのだろうか、今作のジャック・ニコルソンは必見であり、美術館でのバトンさばきや「眼鏡の相手を殴るか??」など台詞や立ち振舞いが冴え渡っていた。怪しくも知的なイメージのマイケル・キートン、型にはまった演技しか出来ないキム・ベイシンガー、妙にリアリティのあるバットモービルなど、現実的な演出と非現実の演出が混在しているのが今作である。

 それら全ての要素が個性的で、それぞれが独立した働きを見せるものの、上質のラインで巧みに融合されバランスよく配置されている、これこそが「バットマン」の魅力だ。アクション映画として捉えると確かに弱く、物足りない部分はある。しかし他の映画では味わえない不思議な高揚感があり、劇中にジョーカーが大金をばら撒きながら腕を伸ばして踊るシーンがあるように、時としてそのようなパレードが観たくもなるものだ。


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ブロークバック・マウンテン [Blu-ray]ブロークバック・マウンテン [Blu-ray]
(2013/09/25)
ヒース・レジャー、ジェイク・ギレンホール 他

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 同性愛をテーマにした作品はいままであまり観たことがなかった、というよりもそのことを題材にした映画が他のジャンルに比べて少なかったように思える。羊の放牧に季節労働者として雇われたジャックとイニス、過酷な労働条件のなか結ばれていく2人。

 最初に出会った時から4年以降、2人が出会うのは自然が美しい山脈でのキャンプ地。それは人目を避けるというのは当然のことだが、大自然のなかで会うことによりブローク・バックマウンテンでの出来事を思い出すこと、また気持ち・本能を呼び覚まし自分に正直になれる唯一の場所だったのかもしれない。周りの誰もが認めない、社会環境が許さない、という様々な弊害を大自然だけが癒してくれていたのだ。




*****以下、ネタばれ注意*****




 今作は導入部分こそ男同士の同性愛だが、それ以外にもアメリカ60~70年代西部の環境、家庭、労働、裕福層と貧困層、差別・偏見といった演出にも考えさせられる部分は多い。また序盤はジャックとイニスの物語だが最後までよくよく鑑賞すると、イニスの他者への愛について語った物語なのかとも読みとれる。

 ジャックへの愛は本当だとしても周囲の目を気にして拒む、奥さんとの家庭生活も拒み、その後のウェイトレスとの付き合いも自ら降りてしまう。そんな人との関係を拒み続けた彼が、ラストで自分の娘に対して見せた態度は感慨深い。ジャックと出会い20年の歳月を経てようやく自分の気持ちに前向き、素直に従えた瞬間だったのだろう。


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フレイルティー 妄執 スペシャル・コメンタリー・エディションフレイルティー 妄執 スペシャル・コメンタリー・エディション
(2007/08/24)
ビル・バクストンマシュー・マコノヒー

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 ビル・パクストンは色々な映画で見かける俳優だが代表作が無い、印象深い役が無い、イマイチ名前を覚えれないという名脇役的なイメージが強かった。ところが今作では初の監督に挑戦し、また初めてとは思えないほどに作品も丁寧に仕上がっている。

 「フレイルティー」はホラーというジャンルに分類されているが、血が大量に噴出したり爆発や追走劇などそれらしい派手な見せ場はない。幼少期・少年期の出来事、兄弟・父子の関係という回想録で物語は進む、ある種のトラウマ体験告白のような構成だ。父親がある日を境に豹変し殺人を強要される、地下室に閉じ込められるなど子供の視点ならではのエピソードが続き、観ている人はじわじわと心理的に追い込まれる。

 オチのどんでん返しが有名な今作だが、そこまで驚くことはなかったような。鑑賞後すぐに「アンブレイカブル」を思い出したが、こちらのほうが親子間での苦悩や葛藤が上手に描かれていたように思う。


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プロヴァンスの贈りもの [DVD]プロヴァンスの贈りもの [DVD]
(2010/08/27)
ラッセル・クロウ、マリオン・コティヤール 他

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 仕事に疲れた都会人が田舎に行って、自分自身や生き方について考え直す。原作「南仏プロヴァンスの12か月」に沿った大筋だが、リドリー・スコット監督とラッセル・クロウという「グラディ・エーター」以来のコンビが見せた作風は、シリアスなものでも叙情的なものでもなく軽妙でなんとも爽やかなものだった。

 リドリー・スコットといえば「ブレードランナー」「ブラックホーク・ダウン」「ハンニバル」「キング・ダム・オブ・ヘブン」と、その世界観の構築、映像センスに定評のある監督だ。しかし今作では「マッチスティック・メン」で見せたライトな空気の仕上がりになっている。同じくラッセル・クロウも大作続きのなか、今回はコメディ的な演出、柔らかい表情など新たな一面も覗かせている。この演出が合う人にとっては嬉しいものだが、個人的にはもっと惹きこまれる様な内容にしてほしかった。

 ヘンリーおじさんが亡くなり相続権を継承した主人公。家の売買、ワイン、ブドウ畑、隠し子、恋愛、と彼が巻き込まれるエピソードが多く焦点が絞りにくいなという印象。予告編で観れたマリオン・コティヤールとの恋愛関係の描写も驚くほど少ない。また1週間の停職後、ロンドンに帰ってきたラッセル・クロウに怒りながらも、会社の共同経営権を打診するくだりもいまいち分かり辛かった。

 そのような細かいことは気にせず、南仏の穏やかな空気を楽しめというのが作品のスタンスなのだろう。劇中の食事・ワイン・街並み・景観はロハスやスローライフのお手本ともいえる心地の良いものだ。物語の前半でマリオン・コティヤールが車を避けて自転車から落ちるシーンがあるのだが、その落ちぶりが何気にすごい(笑)


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キル・ビル Vol.2 (ユニバーサル・ザ・ベスト2008年第2弾)キル・ビル Vol.2 (ユニバーサル・ザ・ベスト2008年第2弾)
(2008/06/12)
ユマ・サーマン.デヴィッド・キャラダイン.ダリル・ハンナ.マイケル・マドセン.ゴードン・リュー.マイケル・パークス.サミュエル・L・ジャクソン

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 「キル・ビル Vol.2」を観たときにVol.1との温度差にまず驚いた。Vol.1では日本への移動や青葉屋での大乱闘など、派手でスケールも大きく、スタイリッシュな演出も冴え渡っていたのを覚えている。しかしVol.2ではやたらと狭苦しい棺桶・キャンピングカー・ビルの家などが主な舞台であり、移動の際にでていた地図をなぞるシーンやアニメーションもなく、どこか古風・古典風味であった。

 「キル・ビル」は元々1本の映画だったものを、尺が合わないとのことでVol.1と2に分けたようだが、実際はテンポ・演出もガラリと変えてきている。俗に言う「動のVol.1、静のVol.2」といったところか。人それぞれに嗜好は違うが、「キル・ビル」は派手でやり過ぎのところが良いと思っていたので、Vol.2の方向転換には個人的に残念だった。

 ただ派手さは無いものの、バカバカしさは継承している。墓場から重力無視の脱出や、白蓮拳の秘技「五点掌爆心拳」などは70年代、カンフー・ゾンビ映画といったB級映画を愛する監督ならではの味つけといえるだろう。

 酒浸りで独り寂しくキャンピングカー生活を送るバドは渋くクールな役柄だったが、Vol.2で1番際立っていたキャラクターはエル・ドライバーことダリル・ハンナだったと思う。ブライドとの壮絶な一騎打ちでは、長い脚を活かしてのライダーキックを喰らわしたり、トイレの便器に顔面を押し付けられたりと、年齢を感じさせない動きと冷酷な目つきで楽しませてくれた。また前回で完全にシークレット扱いになっていた、ビル演じるデヴィッド・キャラダインが初めて全身姿を見せており、彼に「ナチュラル・ボーン・キラーズ」と台詞のなかで言わせた場面が1番面白かった。


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ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 (完全ノーカット版) [Blu-ray]ボラット 栄光ナル国家カザフスタンのためのアメリカ文化学習 (完全ノーカット版) [Blu-ray]
(2010/12/03)
サシャ・バロン・コーエン、ケン・デヴィティアン 他

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 祖国カザフスタンにアメリカの文化を紹介すべく、TVレポーターのボラット・サカディエフが巻き起こす擬似ドキュメンタリー映画。この奇抜な設定の作品が、全米で意外な大ヒットを記録した。ボラットの奇行や過激なコメントが見所となっており、劇中には際どい映像や演出も多数用意されている。

 序盤から飛ばしまくる彼なのだが冷静に鑑賞すると、政治的な皮肉は外部の圧力のせいなのか??ほとんどなく、性的な下ネタが多いことに気付く。街中でマスターベーションをしたり、ホテルを全裸で走ったりと、瞬間の映像は笑えるのだがそこで完結してしまっており、なにか社会を皮肉るような中身を期待していた自分にとっては物足りない。全米でヒットした理由も分からなくもないのだが、今作の演出を受けつけない人にとっては観るに耐えない不快な映画になるだろう。

 「ボラット」の内容からカザフスタンという国の歴史的な背景や思想はある程度、推測できる。完全な偏見のまま、その国のイメージを当てはめるのはよくないが、認知される・注視するという意味で一石を投じたことには間違いないようだ。

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ハンニバル Blu-rayプレミアム・エディション(2枚組)ハンニバル Blu-rayプレミアム・エディション(2枚組)
(2013/06/21)
アンソニー・ホプキンス、ジュリアン・ムーア 他

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 「ハンニバル」を大分の映画館で鑑賞していたとき隣の人が何かを食べていたようだったが、その物音がピタリと止まった瞬間があった。一度席を立って二度と戻ってこない人もいた。劇中にいくつかあるショッキングなシーンは、映画を見慣れている自分でも堪えるものがあり、そのような描写に慣れていない人や内容を知らずに観た人にとっては、恐ろしい体験になっただろう。

 そのようなこともあり「ハンニバル」はインパクトのあるシーンしか話題に上らなかった。それは「羊たちの沈黙」のような心理・内側から湧き出る恐怖とは方向性が異なるものである。前作で背中の皮を剥がす様子を映さなかったのに対し、今作では頭が切り取られ脳みそを摘出する流れを正面から映しているのだ。

 今作にはリナルド・パッツィ、メイスン・ヴァージャー、ポール・クレンドラと3人の悪人が出てくる。どの人物も個性的で、それなりの理由からレクター捕獲に躍起になっているのだが、例の如く裏を衝かれ制裁を加えられることに。その制裁こそが「ハンニバル」の見せ場でありレクターの魅力を深める強烈なシーンに仕上がっていた。なかでもクレンドラに行なった「最後の晩餐」は映画史に残る悲惨でユーモラスなもの、自分の脳味噌を食べさせるという画はインパクトがあるうえにどこか滑稽に映ってもいた。

 クラリスとレクターの絶妙な駆け引き、支配関係を描ききった前作を超える出来とは言えないものの、ハンニバル・レクターを知るという意味では充分に楽しめた。リドリー・スコット監督ということもあり、ビジュアルには徹底したこだわりが観られ、特に序盤のフィレンツェでのロケーションが印象深い。配役が変更になったクラリス役も難しい立場ながら、ジュリアン・ムーアが好演していたように思える。


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キサラギ プレミアム・エディション [Blu-ray]キサラギ プレミアム・エディション [Blu-ray]
(2013/07/24)
小栗旬、ユースケ・サンタマリア 他

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  「そもそもジョニー・デップをこの角度から見たことがない」
会話の節々にあるイントネーションが、妙に耳に残るのも「キサラギ」の魅力のひとつだ。同じように密室劇で、死んだ人の原因を追求するというプロットは「12人の怒れる男」を思い出す。その死因の追求というシリアスなテーマも、アイドルおたくが詮索するためどこかコミカルであり、ネットで知り合った特定不能の5人の男が集まるというのも今時らしい設定。外の天気が晴れ→雨→夕焼けと推移したように、サスペンスフルな路線から一転してハートフルな表情も見せる後半への展開は見事だった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 密室劇での推理は、台詞や小道具のなかにさりげない伏線を忍ばせる必要がある。物語が二転三転するなか、隅々に張り巡らされた伏線をほとんど回収し、観客を納得させる面白い結末を用意した脚本はよく練られていたと思う。

 ただ個人的に残念だったのは如月ミキの身内を登場させすぎたこと。5人の男の素性があまりに彼女寄りに偏っていたため、「実は父親だった」という発言の頃にはになんの驚きもなくなってしまっていた。この父親は、序盤でマネージャーに殺されるような緊迫した場面があったが、そこで父親だと正体を明かすのが普通ではないだろうか。自分の素性をサプライズ要因として引っ張ったために、よくよく思い返すとリアリティに欠けるシーンもあったように思える。また、あれだけ隠していたアイドルの顔をばらしたのも「キサラギ」の世界観を明かしたようで蛇足に感じてしまった。正直者でそそっかしい、捉えどころがなく不思議だったという彼女、そしてアイドルは所詮虚像と劇中で言っているのだから、最後まで秘めた存在でいたほうが作品に即した演出だと思う。

 出演している5人は、現在絶好調の小栗旬を筆頭にユニークな面々が集まっていた。そのなかでも「いちご娘」を演じた香川照之は、ベテランのせいかその立ち振舞いは他の人より群を抜いて巧い。彼の怪しげな挙動から、一変して父親の顔に移り行く様子は自然であり、退屈になりがちな会話だけの物語の質をそっと支えている要因となっていた。


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主人公は僕だった [Blu-ray]主人公は僕だった [Blu-ray]
(2010/05/26)
クイーン・ラティファ、ダスティン・ホフマン 他

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 不満のある毎日、同じように繰り返される毎日、なにがきっかけとなってそれが変化するかは分からない。国税庁会計検査官ハロルド・クリック、彼の変化は頭の中に聞こえてくる声によってもたらされた。歯ブラシを動かす回数、バス停までの歩数まできっちりと決めていた彼がそのルールから脱し、大切な人を見つけ自分の存在意義を見い出すという展開は、なんとも清々しいものだ。

 知らぬ間に小説の主人公になっていたという設定は特殊なものだが、言い換えれば誰でも自分からの視点は一人称であり、生きていく中で誰もが主人公である。天からの声は期待しないが今作を観ると、どんな些細なことからでもなにかを変えてみたくなる、そんな想いが心のなかを駆け巡った。




*****以下、ネタばれ注意*****




 「エターナル・サンシャイン」や「恋愛睡眠のすすめ」など知的で頭を刺激する、特異な設定のドラマは個人的に好きで今作もどのようなラストになるのか期待をしていた。しかしダスティン・ホフマンがあらすじを変えた劇内小説を「まあまあ」と評したように、この作品のラストもなんとも平凡なものであった。あれだけ意味のある死、これ以外の結末は考えられないと言った割には予想内であり、その後の展開も物足りないものに。それをも包括した「まあまあ」の台詞だとしたら、なんともシニカルな映画ではないだろうか。

 予告編などで観れたほどコメディの要素は少なく、真面目に丁寧に仕上げているなという印象をうける。クリックの頭の中の計算が、画面上に数字で現れる演出もポップで目新しく楽しいものだ。手堅い芸達者な出演陣のなかで、スランプに陥った退廃的な小説家を演じたエマ・トンプソンに好感がもてた。近年は「ナニー・マクフィーの魔法のステッキ」、ハリー・ポッターシリーズなどSFファンタジー色が強かったのだが、本作の活き活きとした久しぶりの彼女の演技には嬉しくなる。またダスティン・ホフマンがコーヒー好きで、カップコーヒーを買ったり、注いだり戻したりコーヒーメーカーを弄ったり、どうでもいい演出が面白かった。


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(2007/12/21)
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 大海原に停泊している男女6人が乗った大型ヨット。泳ぎを楽しもうと海に飛び込み始めるが、事もあろうに梯子を出さずにダイブ、6人全員が海にいる状態になってしまう。登れそうで登れないヨットの壁面、こうして6人がヨットに戻れず海に取り残されてしまう。非常にシンプルな話しで馬鹿馬鹿しく思えるが、些細なミスから死に追い込まれる状況に移行する様子はリアリティがあり大変に恐い。事実を元にしているという冒頭の字幕も、恐怖を煽る演出として大いに効力があった。

 スタートして20分ほどで全員が海に居る状態にあるため、残り70分は全て海面の出来事であり、登場人物は水面に浮くため常に手足をバタバタさせている。精神状態もさることながらこの行為は観ている側まで疲れてしまう。ヨットに戻る方法として各々の水着を集めて結び、ロープを作るという作戦があった。これはサービスカットが望める(笑)と期待したが、その後もストイックなまでに水面上の首から上を映す演出のみ、この手の作品にしては大真面目なものであり残念。

 それまで陽気だったグラマーな女性が急に神に縋ったり、重要な道具を駄目にする足を引っ張ってしまう人だったりキャラクター設定は面白い。ただ、海面で70分もたせるだけのネタがなく、所々で退屈に思えたのも正直なところである。同じ都市伝説系・パニック作品として「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」は良く出来ているな、と今作を鑑賞して改めてそう感じてしまった。

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(2007/12/21)
ケイト・ウィンスレット.パトリック・ウィルソン.ジェニファー・コネリー.ジャッキー・アール・ヘイリー

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 喪失して初めて気付くこと


 「リトル・チルドレン」という言葉は正式に存在するのだろうか。造語かもしれないが、大人になりきれない大人というニュアンスのようだ。何歳になっても子供のような心を持っていたいものだが、いつまでもモラトリアムを追っていてはいけない。誰にでもひとつくらいはある秘密、もしくは成熟できていない部分を見つめ直し、そのような心の揺らめきを主役のカップルのみならず、元受刑者、元警官など複数の人々を描きながら物語は進行していく。今の自分に足りないものや必要なもの、それらは失ったときに気付くことが多い。劇中の人物も喪失、あるいは失いかけて初めてその意味に気付かされていた。その苦しみや葛藤こそが経験であり、大人になるということなのだろう。




*****以下、ネタばれ注意*****




 最近、映画を観ていると女性が強く、男性が弱いなと思うことがよくあるのだが「リトル・チルドレン」でも如実にそれを感じてしまった。隠れながらの不倫・情事に耐えられなくなったケイト・ウィンスレットはこの関係を限界と言い、なんらかの進展を男性に求める。一方で不倫相手のパトリック・ウィルソンは逃げようと言い、現在の生活からの逃避を計る。しかもその逃亡途中でも、スケートボード少年に魅入り、ジャンプの技に挑戦して大怪我をするという情けないもの。ジェニファー・コネリー、その母、そしてフィリス・サマーヴィルをはじめ女性を強く描いているのは現在社会の投影なのか、男女間元来の本質なのか興味深いところである。

 ケイト・ウィンスレットが激しいセックスシーンに挑んでいるが、それよりもその夫が、他の女性の下着を顔に纏い自慰行為に勤しむシーンは大爆笑ものである。この夫について、その後の展開はなかったが、なんとも気になるキャラクターだ。ボストン郊外で起こる、この街の出来事をもう少し傍観していたい、そんな気持ちになった。


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(2007/01/12)
ビルギット・ドル、ミヒャエル・ハネケ 他

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 ミヒャエル・ハネケ監督デビュー作にして最高傑作


 自分の身近に居る人の死、病気、貧困、これらが人間の抱える、最も大きいと言われるストレスであり、仮に自殺を考えたり厭世的な気分に支配されるのは、そのような出来事が引き金になることが多い。しかし「セブンス・コンチネント」で提示された、一家心中の理由に前述のようなストレスは一切存在しなかった。家庭は中流かそれ以上、仕事でも昇進を決めて収入も安定、周りの誰も死なず、重い病気もない。一見すると幸せそうに見える家族が、何故そのような人生を選択したのだろうか。




*****以下、ネタばれ注意*****




 序盤から延々と見せていた日常生活の姿は我々自身の毎日であり、大きなストレスは無くとも、道具の使用と支配に反映されたように、繰り返しの日々を生きている。その変わり映えのない世界を嘆いたのか、存在しない第7の大陸を劇中の家庭は目指してしまった。興味深いのは、道具からの解放を叶えるべく家の物、家財に限らず衣類・レコードに至るまでを破壊し価値を無くすという行動だ。お金をトイレで流すという行為も、物質社会からの逃避という心境を顕著に感じてしまう。しかしその道具を破壊するものも道具であり、お金を破棄する際ですらトイレを利用、死ぬ間際までテレビ画面を覗いていたというのは、なんとも滑稽なことではないだろうか。どこまで逃亡を計ろうと、現実世界に存在する闇からは絶対に解放されないとのアイロニーに包まれたメッセージを感じる。

 厭世観とは本来、人に備わっている感覚なのだろうか。その感覚が「道具」によっていよいよ姿を現し、心を蝕んでいく…その心の侵食過程を映像で表現できている映画は少ない。言語や動作でも伝え難く、曖昧で不確定な人間の本性。現在の心の闇とも言える領域に逸早く切り込んだ「セブンス・コンチネント」は、ミヒャエル・ハネケ監督のデビュー作品であり最高傑作だといえる。


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