その土曜日、7時58分 [Blu-ray]その土曜日、7時58分 [Blu-ray]
(2009/07/03)
フィリップ・シーモア・ホフマンイーサン・ホーク

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シドニー・ルメット監督の遺作


 フィリップ・シーモア・ホフマンとマリサ・トメイの激しいベットシーン。予期せぬ幕開けに驚いてしまった。他の作品では見かけなかった2人の裸にドキドキしつつ、いつの間にか物語の世界へと呑み込まれていった感じだ。

 「その土曜日、7時58分」のストーリーは一本調子なのだが、時間軸と視点を入れ替えることにより人物の因果関係と、事件の前後の様子が徐々に明らかになっていく構成である。強盗事件のその瞬間が土曜日の7時58分であり、その1点を中心に少しずつ周りが見えはじめ、そしてある一家が転落していく。「ファーゴ」の雪だるま式に事態が悪化していく様子と、「ジャッキー・ブラウン」のように視点変化させての展開が今作の特徴だ。




*****以下、ネタばれ注意*****



 
 フィリップ・シーモア・ホフマンとイーサン・ホークが兄弟として出演。どう見ても似てない兄弟だが、その辺りの違いも物語に絡めており、巧い脚本に絶妙なキャスティングをしてきたなと舌を巻いてしまう。今作で存在感を放っていたのは、やはりフィリップ・シーモア・ホフマンだ。彼の低音のセクシーな声、そして「パンチドランク・ラブ」以来の「shut up!!」連呼が嬉しかった。後半で枕越しに銃を発砲する際、一瞬だけ間を空けたさり気なさも好きである。

 また弟役のイーサン・ホークも情けない役どころではあったが、最後に兄に向かって「早く撃てよ」と柔らかい表情で語るなど、要所で見せ場があり、こちらも好感が持てた。そのような芸達者な2人であれば、兄と弟の役を仮に入れ替たとしても、物語として充分に成立していたと思う。

 今作を観終えてひとつだけ疑問が残った。それは冒頭のベットシーンが時間軸で、どこに当てはまるのかということである。それ以外のシーンには、強盗○日前○日後と字幕が挿入されていたのに、その場面にはない。うる覚えだが「(やっぱり)リオは違う」というニュアンスの台詞があったので2人は、リオに高飛びしたのだと思っていた。しかしアンディは父親に殺されたため高飛びは成功していない…そこで2つの可能性を考えた。

 ひとつは強盗を決行する前の時間であり、お金の目途が立ちリオ行きを決めたことで、夫婦の仲が戻りかけたベットシーンだったという見方。ふたつめは、○日前という字幕がないことから、あのシーンはアンディの夢だという見方。強盗失敗後、アンディが自分の部屋を荒らした後に少し眠るシーンがあったが、そこで見た夢ならば起きた直後に荷造りを始めた説明もつく。

 冒頭のシーンをもう一度観ると、部屋の間取や雰囲気ではっきりと答えが解りそうだが2回観に行く余力がない。マリサ・トメイの裸に気をとられてしまった自分をちょっと反省してみたり…。


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ハンコック スペシャル・エディション [Blu-ray]ハンコック スペシャル・エディション [Blu-ray]
(2010/04/16)
ウィル・スミス、シャーリーズ・セロン 他

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 中盤までは楽しめるのだが…


 ウルトラマンは巨大化して敵の怪獣を倒すのだが、その間にも随分と周りのビルを壊したりもしている。ちょっとした被害をだすものの、ウルトラマンが称賛されるのは必要とされる正義のヒーローだからである。しかしそのヒーローが嫌われ者だったら…?「ハンコック」はそこに着眼点を置いたコメディ映画である。

 破天荒なアクションを見せるも、大真面目に物を壊すな、法を犯しているという市民の冷えた問いかけは面白い。駄目ヒーローから更生しようと、なんとか努力してみるハンコック。そのような展開をみせる中盤まではわりと楽しめたのだが...




*****以下、ネタばれ注意*****




 今回気になっていたのが、シャーリーズ・セロンがキャスティングされていたことである。彼女は予告編でも姿を見せず、どの役で、どのタイミングで物語に絡んでくるのか謎だった。そして明かされる正体。彼女もハンコックと同じ能力を持っており且つ、昔2人は夫婦だったということだ。それを踏まえて、キッチンでウィル・スミスとシャーリーズ・セロンが掛け合うシーンは笑える。しかしそこが今作の最高潮点であり、以降、物語は失速状態となってしまった。

 駄目ヒーローからの更生という基礎プロットのはずが、自分の過去や同じ能力の持ち主が表立ったせいで物語の軸がぶれ、爽快感に欠ける仕上がりになっていた。またアクションも最後は病院での闘いになるのだが、後半に向かうことに見せ場が暗く地味になっている印象をうける。

 賛否あるだろうが、中途半端にシリアスな展開にせず序盤の楽なテンションで最後まで見せてほしかったのが正直な思いだ。女性版ハンコックの登場は明らかにパート2で見せるエピソードである。


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007 / 慰めの報酬  [Blu-ray]007 / 慰めの報酬 [Blu-ray]
(2009/06/19)
ダニエル・クレイグオルガ・キュリレンコ

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カジノ・ロワイヤルに比べ、アクションに比重を置いたのが残念。


 「007」シリーズ第22弾にして初の続編となる「慰めの報酬」。物語は前作「カジノ・ロワイヤル」の1時間後から始まるスリリングな立ち上がり。キャラクターも前作から引続き登場することになり、さらにジェームズ・ボンドの心境を理解する意味でも、今作を観る前に「カジノ・ロワイヤル」の再鑑賞を強くお勧めしたい。特にミスター・ホワイト、フィリックス、マティスに関しての位置関係は把握しておく必要がある。




*****以下、ネタばれ注意*****




 秘密兵器やスマートさを排し、リアルにそして人間ドラマを重視したことで成功を収めた新生007。「慰めの報酬」では前作の倍、アクションを盛り込んだせいか、スピード感はあるものの若干、人間ドラマが弱くなっている印象をうけた。ジェームズ・ボンドが全てを捨てる覚悟で愛したヴェスパー。彼女を失ったことへの復讐心が続編となった今作の核であるが、悪の組織が大き過ぎ、いまひとつ背後関係が読み難い。

 今回の取り敢えずの敵はドミニク・グリーンであったが、彼自身が直接ヴェスパーを操っていた訳ではない。さらに大物ミスター・ホワイトに関しても逃がしており、なんともすっきりとしないもの。ラストの言動により一応の復讐劇は終わるのだが、顛末がはっきりとしない。もっとシンプルに相関をまとめ、ボンドの激昂や葛藤を観たかったものだ。

 アクションは全編に渡り展開され、陸・海・空と余すところなく魅せてくれた。しかしひとつひとつのシーンが短く、チェイスの締め方も思いの他あっさりしている。良かったのは冒頭のカーチェイスとその後のロープを使ってのアクションシーンだ。やはり007シリーズは前半に面白いアクションが詰まっているなと改めて感じてしまう。石油まみれの女性の死体、砂漠のホテルの内装や大掛かりな爆発は往年のシリーズを思い起こさせて嬉しくなった。

 落下するボンドを上から追うカメラや、バイクで船にジャンプした際の背後から映したカメラワークは、ボーンシリーズの影響をうけているように思える。カット割りを早くし、スローを使わず、主人公の動きに連動した編集は近年のアクション映画の主流だ。

 ダニエル・クレイグの体を張った演技とクールな表情は相変わらずかっこよく、2作目にして既に貫禄さえ感じてしまう。残念なのはマチュー・アマルリックだ。個人的に好きな俳優で、ダニエル・クレイグとは「ミュンヘン」以来の共演となったが、登場時間・見せ場・個性に乏しい敵キャラクターである。唯一、ボンドと戦った際に発していた「ヒャー、ヒョー」という、甲高い奇声だけが記憶に残った(笑)不気味な存在に仕上げるために、もう数シーンほど見せ場・演出やエピソードがほしかったところだ。


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おいしいコーヒーの真実 [DVD]おいしいコーヒーの真実 [DVD]
(2008/12/05)
タデッセ・メスケラ、他

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 私はスターバックスが大好きである。とりわけ、キャラメルマキアートが好きで同店ではキャラメルマキアートしか注文したことがない。トールサイズ(354ml)で400円以上する高価なものだが、その甘く濃い味に魅了されてついつい飲んでしまうのだ。

 日本でも各種カフェやチェーン店が乱立し、世界中で1日に20億杯以上消費されているコーヒー。そのようなコーヒー文化の活況の裏にある暗部に迫ったドキュメンタリーが「おいしいコーヒーの真実」だ。今作の掲げる問題点は、コーヒーの原材料である豆、その生産者である農家の不遇について言及している。1989年、国際コーヒー協会が破綻して以降、コーヒーの価格は下落しており、貿易のほとんどをそれに依存しているエチオピアの現状を取り上げているのだ。




*****以下、ネタばれ注意*****




 今作のドキュメンタリーの最大の特徴は、生産国と消費国のシーンを交互に映していることだ。スターバックス1号店の賑やかな様子を見せた後に、スターバックス社へコーヒー豆を供給しているシダモ地域の飢餓の様子を映す。先進国と途上国の往来によって、不公平感と事態の深刻さを際立たせる演出だ。

 残念なのは、いまひとつ解決策が見当たらないということだ。政治レベルの話をすれば、WTOの組織の公平さを。個人レベルではフェアトレードの意識を高めるといったところか。具体的な打開に乏しく先が見えなかった。

 コーヒー1杯における問題の認識はできるのだが、この作品を観たことにより、不買いをすることやアクションを起こすまでには至らない。しかし、キャラメルマキアートを口にしながら、今作を思い出すと別の苦味を感じてしまうのも事実。問題提起として、ブームの功罪としては意義のある映画だと思う。


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12人の怒れる男 [DVD]12人の怒れる男 [DVD]
(2009/01/23)
ニキータ・ミハルコフセルゲイ・マコヴェツキイ

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 密室劇の金字塔といえばシドニー・ルメットの「十二人の怒れる男」だ。今作は舞台を現代のロシアに置き換えてアレンジを加えたリメイク作品である。ユニークなのは、1957年版の邦題が「十二人」と漢数字表記に対して、2007年版は「12人」とアラビア数字表記、数字の表記によって作品を区分しているところだ。またリメイク元と同じく、キャラクターが名前を持たず、陪審員1、陪審員2、3、4…12とクレジットされているのも珍しい。撮影中はお互いを何と呼び合っていたのか、どうでもよいことが気になってしまう。

 今作は57年版「十二人~」と大きく異なる点が2つある。ひとつは完全な密室劇ではなくシーンの合間・合間に、被告人である少年の映像が挿入されることだ。孤児から義父に出会うまでの経緯や生い立ちを挟むことにより、彼自身について、また国の紛争についてイメージしやすい演出となっている。

 ふたつめは、どんでん返しや高度な会話劇を狙ったものではなく、議論を進めるうちに自らの内省や、現代ロシアの問題を省みる展開になっていくことだ。陪審員の口から吐露される真実…人種・国の差別やイデオロギーの変化を皮肉たっぷりに会話へ込めているのが見所である。そのためロシアとチェチェンの現状や、そのパワーバランスについて知識がなければ理解に苦しむ台詞が多い。少年の罪を問う際に生じてしまった偏見、そこから国の現状を見つめ直すスパイラル状に広まる構成が新鮮に思えた。




*****以下、ネタばれ注意*****




 有罪11人:無罪1人から、有罪1人:無罪11人に転じるまではおおよそ検討はつく、驚くべきはその後だ。「路上より刑務所のほうが長生きできる」。少年の釈放後を察し、わざと有罪にするほうが良いのでは?と説くのである。日本に居ては理解し難い提案だが、なにか生々しさと世の中の非常さ冷淡さを感じた。色々なことを思い巡らされる2時間40分。「意義のある時間だった」と最後に陪審員の1人がつぶやくが、まさに自分自身に跳ね返ってくるような響きだった。
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ラスベガスをやっつけろ [DVD]ラスベガスをやっつけろ [DVD]
(2000/06/23)
ジョニー・デップ

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 「パイレーツ・オブ・カリビアン」のジャック・スパロウ船長ことジョニー・デップ。「チェ 28歳の革命/39歳 別れの手紙」でチェ・ゲバラを演じたベニチオ・デル・トロ。「スパイダーマン」シリーズ、スパイダーマン役のトビー・マグワイヤ。このヒーロー3人が同じオープンカーに乗り1つの画面に納まっている奇跡。そしてヒーローとは思えない、横暴振りを、壊れた様を見れるのが「ラスベガスをやっつけろ」である。

 ジョニー・デップは禿げた変な髪型でトカゲのような動き。ベニチオ・デル・トロは中年太りした情緒不安定な怪しい弁護士。妙な長髪のトビー・マグワイヤ。3人とも他の映画で観れるような輝きはなく、とことん壊れているのだ。この様子はファンならずとも絶句ものであり、ドラック中毒という設定はあるが撮影するにあたり、どうやってテンションを維持していたのか気になる。




*****以下、ネタばれ注意*****




テリー・ギリアム映像大全テリー・ギリアム映像大全
(1999/10)
ボブ マッケイブ

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 監督のテリー・ギリアムは「バロン」「未来世紀ブラジル」「12モンキーズ」のようにスケールの大きな物語を創造することが多い。その監督が現実世界でラスベガスを舞台に描くというのは、意外に思えたが見事に常識離れをした世界を映している。怪獣が出現する、アニメーションで蝙蝠を飛ばす、顔が変形するなど奇妙で歪んだ世界をドラック中毒者の視点から強烈に描いているのだ。

 破天荒な演出と豪華スターの怪演により、カルト的な雰囲気があるが主題は別に存在している。1970年代初頭、ベトナム戦争前後のアメリカ社会の変化、イデオロギーの変化への抵抗である。劇中にはこのような台詞が、「この旅の使命。それはアメリカ人の正義と真実を この国の豊かな可能性を証明するためだ」ドラックに入浸るジョニー・デップだが、ふと我に返り遠くを見つめる寂しげな瞳こそが物語の根幹なのだ。

 ドラック、ベトナム、ヒッピーなど日本人には馴染みの薄い題材だが、他では観れないスターの弾けぶりも含めて一見の価値はあるだろう。


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チェ 28歳の革命 [DVD]チェ 28歳の革命 [DVD]
(2009/12/11)
ベニチオ・デル・トロ

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 海外サッカーの中継を観戦中、スタンドにカメラが向けられると、チェ・ゲバラの顔がプリントされた大きなフラッグをたびたび目撃する。同様にT-シャツやステッカーにもプリントされていることが多く、勝利や正義のシンボル・アイコンとして今日、世界中の人々に認知されているチェ・ゲバラ。

 革命家という印象が強いのだが、実際に彼がどのような人物で何をしたのかはほとんど知らなかった。そのこともあり、20世紀最大のカリスマと形容される、彼の伝記が映画化されることは(「モーターサイクル・ダイアリーズ」以降の)素直に勉強になると思えたのだ。




*****以下、ネタばれ注意*****




 鑑賞して感じたのは、非常に冷静な作品であるということだ。大袈裟なドラマ仕立てや感情を露わにして、観客を扇情することもない。実際に起きた出来事を淡々とこなしているだけである。時系列の入れ替えと時間軸によってモノクロやコントラストを変化させる演出。そして前半部分に多かった短いカット割の編集は、「アウト・オブ・サイト」や「トラフィック」を経由したスティーブン・ソダーバーグ監督らしい切り口だ。


モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版 [DVD]モーターサイクル・ダイアリーズ 通常版 [DVD]
(2005/05/27)
ガエル・ガルシア・ベルナルロドリゴ・デ・ラ・セルナ

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 そのような淡白な進行のなかでも、チェ・ゲバラの人間性が見れる箇所がいくつかあった。なかでも農民から入隊した新兵に対し、文字の読み書きを徹底させた場面が印象深い。単に武力だけでなく、人格を形成する上での知力・教育の必要性を説くその背中に、人としての温かさや愛情の深さを感じてしまう。

 今作の公開によりチェ・ゲバラが再び注目され始めている。武力闘争による行動の是非はあるが、それよりも彼の生き方を学ばなければならない。祖国や身分を捨ててまで、自らの信念を貫くそのしたたかな姿に、時折見せる柔らかい笑みに、世界中の人々が心を打たれているのだろう。自分の想いを貫き、生きて行くことが困難な時流だからこそ、彼の存在がより一層大きなものに見えるのだ。

 「28歳の革命」ではキューバ革命の成功を。「39歳 別れの手紙」ではボリビアでの革命の失敗を描く。今作でジャングルでのゲリラ戦の多さに驚いたが、次作では更に激しいゲリラ戦になるとのことだ。情熱に生きた彼の最期はどのような流れで起きるのか。ベニチオ・デル・トロの好演を含め、「39歳 別れの手紙」も鑑賞したい。


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地球の静止する日 [Blu-ray]地球の静止する日 [Blu-ray]
(2008/12/12)
マイケル・レニーパトリシア・ニール

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 1951年製作が「地球"の"静止する日」。2008年製作のリメイクが「地球"が"静止する日」。1文字の違いにより2作品を区別した邦題が、なんともユニークである。タイトル名が被らない配慮ではあるが、親切に思えたり、返って紛らわしく思えたり。

 今作は古典SFの傑作であり、宇宙人を絡めたSFでありながら人間との交流や世界情勢の危惧などの、ドラマ・メッセージ性を重視した内容が高い評価へと繋がっている。クラトゥと人間の会話は外から飛来した者の警告として、当時は相当のインパクトがあったようだ。

 今から50年以上も前に製作されたものであるため、合成部分はどうしても見劣りするが、それも味があって一興。円盤型のUFO、そしてロボット型ゴートの造形がかっこよく、思わず見入ってしまう。ゴートはクラトゥを護衛するロボットで、地球人にとって脅威の存在であるが、どう観ても着ぐるみである(笑)地球上にない硬い物質で覆われている割には、動くたびに膝の関節部分がペコペコと曲がってしわになっているのが可愛い。目から発するレーザービームであらゆるものを消し去るが、普段はボーっと立っているだけというのもナイスである。

 これまで、映画には様々なタイプの宇宙人が登場してきた。侵略を企てるものから友好的なものまで、宇宙への憧れや未知の生物との交信といった事象は、SF作家の好奇心の中枢である。ゴートとクラトゥのコンビは正にその先駆者であり、映画史に残るユニークなキャラクターだ。


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地球が静止する日 ★
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変態ピエロ [DVD]変態ピエロ [DVD]
(2009/01/07)
ミカエル・ユンパトリック・シェネ

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 「変態村」「変態男」に次ぐ、"変態"シリーズの第3弾が「変態ピエロ」である。原題は「Heros」であり、「変態ピエロ」は日本オリジナルの邦題だ。この手の作品に多いのだが、今作もやはりタイトルオチの感が否めなず、"変態"とインパクトのある単語を用いながら、その文字列に勝るインパクトはなかったように思う。

 また今作は「スマステーション」のツキイチゴローで稲垣吾郎が「醜い」と酷評したことで話題となっていた作品。番組中のコメントにあった、滅裂さやシュールさを求めていたのだが、一応の物語が存在し、突き抜けた感覚やシーンが少なかったのが残念だ。ピエロ姿に変装するのも後半のみであり、ただただ退屈する展開が絶妙の間延びを運んでくれる。

 主人公がカメラ越しに話しかける演出は「ファニーゲーム」でハネケ監督が。現実と空想の往来はリンチ監督が。そこに「レクイエム・フォー・ドリーム」の画面分割と素早いカット割りを加えたような演出、既視感にあふれオリジナリティがないもマイナスである。ピエロの風貌も近頃の、「ダークナイト」におけるジョーカーを連想させ新鮮味がなかった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 唯一、窓から落下して地面に触れる瞬間に、海中の映像に切り替わる演出が面白い。劇中で3度ほど使用されていたが、映像・音楽共にセンスを感じさせるもので、この箇所だけ斬新でダイナミックな印象をうけた。

 この変態シリーズは今後も続いていくのだろうか??タイトルに踊らされてはいけないが、ヨーロッパ映画の波長を感じ取る意味を含め注目していきたい。
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ハプニング [Blu-ray]ハプニング [Blu-ray]
(2010/07/23)
マーク・ウォールバーグ、ズーイー・デシャネル 他

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 原点回帰を狙うシャマラン監督の手堅さ


 前作「レディ・イン・ザ・ウォーター」で評価も興行収入も散々な結果に終ったM・ナイト・シャマラン監督。そのせいか「ハプニング」では興行収入が成功した「シックス・センス」「アンブレイカブル」「サイン」のプロットとよく似た展開になっていた。




*****以下、ネタばれ注意*****




 主人公の夫婦は、なんらかの原因で心が離れている。そこにSF・オカルト的な要素の脅威が迫り、それを乗り越えることで夫婦の絆や気持ちを取り戻すというものだ。「シックス・センス」が評価されたのはどんでん返しの素晴らしさよりも、幽霊もののストーリーながら人間ドラマをきちんと描いていたところにある。今回、シャマラン監督は興行収入のプレッシャーもあり、その辺りをかなり意識して製作したのではないだろうか。

 意外だったのはPG-12指定とあるように、人の死に関してのショッキングなシーンが多いということだ。飛び降りや銃殺、動物に腕を喰われるなど、これらの描き方は監督の本来の演出にはなかったものである。今回はどんでん返しがない分、そこで見せ場を繋いでいる印象をうけた。また映画におけるタブー、子供の殺害という事象も堂々と描いており、かなり驚かされた。

 観客の最大の関心事項、人々はなぜ謎の死を遂げたのか??なぜ主人公らは助かったのか??明確な答えを示さずスッキリしないオチだが、最後まで飽きずに物語を引っぱる力、オカルトの題材選びや話の運び方の巧さはさすがである。人によって自殺の方法が異なったり、少数派グループの優位性など、不明点はあるものの"次回作も絶対に観てしまう"その気持ちにさせるのが、シャマランマジックなのだ。

 また豪華過ぎないキャスティングも程良く、特に主人公の妻を演じたズーイー・デシャネルは魅力的に映っていた。ラスト近く、妊娠の結果を知らせるため玄関先でマーク・ウォルバーグに見せた、彼女のステップのなんともキュートなことか。衝撃の結末がなかったせいか、個人的にはそのシーンが最大の見せ場だった。


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ライジング・サン (Blu-ray Disc)ライジング・サン (Blu-ray Disc)
(2007/05/18)
ショーン・コネリーウェズリー・スナイプス

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 ハリウッド映画に出てくる日本人や日本の描写は、どこか誇張された表現が多かったがその最たるもの、トップに君臨している作品は間違いなく「ライジング・サン」だ。日本人相手の高級コールガールが殺害され、その犯人を追うサスペンスだが、あまりに風変わりな台詞や演出の数々に大爆笑は必死である。それも、ショーン・コネリー、ウェズリー・スナイプス、ハーヴェイ・カイテル、スティーヴ・ブシェミという、豪華キャストの面々が揃っているから(当時は無名に近い俳優もいるが)面白い。では、劇中で起こる爆笑シーンの一部を紹介しよう。


◆片言の日本語、おかしな台詞

 日本企業ナカモトビルのなかで殺人事件が起こり、日本人ビジネスマンを相手に事情聴取等をするため、ショーン・コネリーやウェズリー・スナイプスは日本語を話さないといけない。ショーン・コネリーは日本通?とのことで最初から喋れるのだが、ウェズリー・スナイプスは言葉・文化に疎く、日本語レッスンのカセットやショーン・コネリーを通じて徐々に日本について学んでいくことに...以下、このような台詞が劇中で使われる。

 「センパイ、コウハイ、デテイケ、ワカランノカ、ベッタク、ジューヤク、ケーレツ、オトコニムカッテナンダ、ダイロッカン、アイアム ベリー ベーリー オーコッタ」

 面白過ぎ(笑)もっと日常会話レベルの単語を重視したほうが良いと思うのだが「ダイロッカン」なんて誰の入れ知恵なのだろうか。


◆変な演出、変な小道具

・オープニングで「日昇」の漢字。ライジング・サンということなのだろうが「日昇」という言葉自体、日本でも馴染みがない。
・会議室でのセックスシーンの後、間髪入れずに白塗りの日本人女性のアップ!!呪怨か!!(笑)
・容疑者の「ベッタク」にジパンゴビールと書かれた謎のポスターが。ジパングの誤り??
・女体盛りのシーンがある。しかもその現場に突入した2人警官が、女体盛りをされていた女性に銃を向ける。容疑者のエディ・坂村が逃亡しているのに、それどころではないゾ。
・ナカモト社と対立関係にあるのが「ハマグリ社」(笑)金色のスーツ??だったり、研究施設なのに日本庭園があったりと怪しい。
・エディ・坂田がお酒を飲む際に、アメリカ人の女性の乳首に酒を浸して、その乳首を吸うというよく分からない演出。見張りにあたっていたハーヴェイ・カイテルはそれを見て一言「この国の天然資源を」(笑)


ライジング・サン [DVD]ライジング・サン [DVD]
(2007/09/21)
ショーン・コネリー

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 当時、日米経済摩擦が起きており、アメリカに進出してくる日本に対して皮肉を込めているのは分かる。ゴージャスなナカモトビルの全景を映したかと思えば、そのすぐ後にアメリカのスラム街を映すなどその辺りからも風刺を感じてならない。しかしショーン・コネリーがハーヴェイ・カイテルを気絶させるというシーンで、気絶させたにも関わらず、その後に明らかにまぶたが動いていたりと、やる気のなさもまた楽しい。

 「ライジング・サン」の伝説はこれだけではない。ラストシーンはショーン・コネリーの娘をウェズリー・スナイプスが車で送り、彼女を見届けるという、本来それもどうかと思うラストカットなのだが、エンドロールに行く前になにか物音か雑音のようなものが聞こえた気がした。巻き戻してもう一度聞いてみるとショーン・コネリーの声で「コウハーイ」のナレーションが!!飲んでいたアイスコーヒーを噴き出しそうになった。

 離婚して独身となったウェズリー・スナイプスが、密かに彼女との距離を縮めようかと切なく想う表情、そこに低い声で「コウハーイ」である。意味不明であり極めて不気味。最後まで楽しませてくれる作品、「ライジング・サン」最高!!


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告発のとき [DVD]告発のとき [DVD]
(2009/01/07)
トミー・リー・ジョーンズシャーリーズ・セロン

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 近年、ハリウッド製作の戦争映画はより内省的なものへと向かっており、「告発のとき」はその最たる映画であった。今作でトミー・リー・ジョーンズは、失踪した帰還兵の息子の行方を追うのだが、それはいつしか現在のアメリカが抱える問題、イラク戦争で受けた兵士のストレスを探り出す行動へと繋がっていく。




*****以下、ネタばれ注意*****




 息子の行方不明に、軍や国を巻き込むとてつもない陰謀があるのかと思えば、親しい仲間内での殺人であったという結末。話の起伏の少なさは意外に思えたが、真実を淡々と証言する兵士のラストのくだりは大変怖いものがあった。人間性・感情を戦争により奪われた若者。巨悪を討つのではなく、このような結末こそが逆にリアリティを与え、戦争に対する見方を変えてゆく。

 「7月4日に生まれて」などベトナム戦争を始め、帰還兵の苦悩はよく知られたものだが、何故このような事象をアメリカを含めて繰り返してしまうのか。「大いなる陰謀」でのトム・クルーズの言葉、「9.11のあの朝、誰が冷静な判断を下せただろうか」そのようなニュアンスの台詞を思い出した。止められない報復の連鎖ということになるが、一時的な怒りや感情の乱れは、新たなストレス(PTSD)を生み出してしまうのだ。

 印象的だったのはトミー・リー・ジョーンズの首の傷が塞がらず、そこから再び血がでてきたシーンだ。息子の死亡を暗示させる効果。そして「ノーカントリー」でも同じような演出があったが、傷口を抑え完全に止血をしなければ、血は止まらない、報復は終わらないということだ。

 このことを踏まえ、アメリカはいよいよ止血をする時が近付いているのだろうか。灰色の空と萎びた逆さまの国旗が、疲弊した人々の行き場のない苦しみを代弁していた。


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ジェレミー・レニエデボラ・ブランソワ

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 "映画とは誰かの人生の一部である" 「ある子供」を観終えてそんな言葉を思い浮かべた。20歳のブリュノと18歳のソニアの若いカップル、そして産まれたばかりの子供。ブリュノは軽い思い立ちから子供を売ってしまうが、その行動がブリュノを徐々に追い詰めていくことになる。人生は選択の連続であり、男の行動と選択により、その次の事柄に転じていくシンプルな物語。大袈裟な映画手法を排しているせいか、劇中の人物が自然に立ち振る舞っているように観えるのが印象的だ。




*****以下、ネタばれ注意*****




 驚いたのは子供を売るシーンである。2つの部屋を使い、互いの顔を見せ合うことなくお金と子供を交換する演出がなんともリアルに思え、実際にあった事象を取り入れたのかな、などと勘ぐってしまった。携帯電話でのやりとりを経て、数時間後には子供とお金が入れ替わること自体、ショックなことである。

 映画を最後まで観終えると"ある子供"という題名の本当の意味が見えてくる。何故、ブルーノは簡単に子供を売ってしまったのか。彼の母親との会話のシーンで見て取れるように、家庭環境や母親からの愛情の欠如が、ブルーノの今日の人格に結びついたのは間違いないだろう。20歳との設定だが、水辺を棒で掻き混ぜたり、泥のついた靴で壁を蹴ったり、細かな描写がブルーノの子供っぽさを積み上げており、その辺りの演出は非常に巧い。

 「ある子供」は沢山の教訓を謳っており、さながら現在の寓話のような存在に思えた。


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