英国王のスピーチ スタンダード・エディション [Blu-ray]英国王のスピーチ スタンダード・エディション [Blu-ray]
(2012/08/02)
コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ 他

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 自分の悩みとどのように向き合うか


 アカデミー賞の作品賞といえば、荘厳なスペクタクルものや、社会的なメッセージを盛り込んだ堅苦しいイメージがある。テーマが重いものや騒々しい緊張感に塗れた映画などだ。しかし2011年アカデミー賞の頂点に立った「英国王のスピーチ」は、それらと一線を画す”あたたかさ”に溢れた作品だった。




*****以下、ネタばれ注意*****




 自身のコンプレックスや悩みを克服する際に、いかに周りのサポートが大事なのか、ということを痛感させられた。吃音のジョージ6世はライオネルから友情を、エリザベスからは愛情を受けその悩みを克服していく。「自分は王になる資格はないんだ」と涙ながらに妻に告白するシーンではこちらも泣きそうになり、ラストの国民に向けたスピーチでは深い感動に出会う。特に素晴らしいのが、劇中でジョージ6世の吃音が完全には治らないことだ。展開からいえば、最後のスピーチで劇的に変わった様子を描写しそうだが、今作はそうではない。自身の障害を完治させるのではなく、それを踏まえどのように向き合うのか、その大事さを説いている部分にリアリティや作品の意義を感じた次第だ。スピーチの途中からライオネルが国王への指揮を止め、目を閉じている描写も感慨深い。

 またテーマが深刻になりそうな一歩手前で放つ、登場人物のユーモアが作品を程よい空気に保っている。最後のスピーチの後の「やっぱりWが苦手ですね」「僕と分かるように印を残しておかないとね」との阿吽の呼吸。1番好きなシーンだ。互いの信頼関係が読み取れる台詞である。「バットマンビギンズ」「ダークナイト」のアルフレッド(マイケル・ケイン)もそうであったように、英国紳士のジョークは知的で思いやりがあるなと、ある種の憧れを抱いてしまう。

 コリン・ファース、ジェフリー・ラッシュ、ヘレナ=ボナム・カーター、3人の演技は素晴らしく、3名共にアカデミー賞にノミネートされたのも納得である。特にコリン・ファースのあの不安気な表情や動作は、国王の弱さや優しさを体現している見事なもの。吃音克服メニューのなかにある、卑猥な言葉を連呼するシーンはかなり面白い。

 映画「落下の王国」で印象深かったベートーヴェンの交響曲7番第2楽章がラストのスピーチでも流れる。その壮大なBGMとラジオに耳を傾ける国民、スローモーション効果。国王のスピーチにぴったりな構図であり、同曲がまた好きになった。


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メメント ★★★★★
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ありあまるごちそう [DVD]ありあまるごちそう [DVD]
(2011/08/27)
ドキュメンタリー映画

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 大量に捨てられるパンの山。この冒頭の映像に言葉を失ってしまう。タイトル「ありあまるごちそう」に則した映像だが、それを超えるインパクトが劇中になかったのは残念である。題名からすると、飽食文化への警告を与えるドキュメンタリーと思っていたが、その訴えは一部分であり、全体としては食に関する構造の変化を説いていた。

 「フード・インク」のインターナショナルともいえる内容だが、そこは「いのちのたべかた」を輩出したヨーロッパ。見た目の派手さやテンポの良さではなく、静の映像も淡々と見せている。個人的にはこの淡々さが退屈となり集中力を持続できなかった。テーマは興味を惹かれるものだが、見せ方でもうひと工夫あっても良かったと思う。また、邦題も内容と齟齬があり違和感を覚えた。

 オーストリア、ウィーンのパンの山。スペイン、アルメリアのビニールハウス農場。このふたつが映像として特に記憶に残った。「フード・インク」で観た食の構造変化はアメリカのみに止まらず、EU諸国でも実際に起きている事象だ。今作では監督の主張はなく、あくまでも問題提起に終始している。この現状に不満をもってほしいということが、監督のメッセージだ。燃料用途として赤く燃えるコーンの映像がなんとも不気味である。
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キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)キック・アス Blu-ray(特典DVD付2枚組)
(2011/03/18)
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 ヒット・ガールが敵のアジトに殴り込み、大乱舞を見せるシーンは近年の映画の中では1番の興奮を覚えた。「キック・アス」というタイトルながら、鑑賞後には“ヒット・ガール”のことで頭が一杯である。2丁拳銃、バタフライナイフ等々、数多くの武器を駆使し、スピードと武術を備え、11歳とは思えぬバイオレンスと暴言を吐きまくる姿に惚れずにはいられない。映画館の席から立ち上がって声援を送りそうになる、そんな最高にクールなニューヒーローの誕生である。

 今作の魅力は沢山あるが、まずはアクションシーンの見せ方が上手いということが挙げられる。キャラクターそれぞれに特長と見せ場を作り、動きの全体像が見えるカメラワークとテンポのよいカット割りでテンションを保っている。ヒット・ガールの微笑みや、ビッグ・ダディの手榴弾の投げ方など、アクションの合間に見せる演出もカッコ良い。マシュー・ヴォーン監督はアクションのツボを上手に押さえていると思う。キック・アスのパンフレット、公式サイトには面白いことに、キャラクター毎の戦闘能力が数値化されている。キック・アスとレッド・ミストの数字の低さには泣けるがマフィアのボス、ダミコの能力が高いのは劇中のハイキックの決め具合などからも頷けるものだ。




*****以下、ネタばれ注意*****



 
 もうひとつの魅力としては、今作はコスチュームを纏った人々の群像劇であるということである。予告編や前評判だけでは、コミックおたくの高校生がコスプレでヒーローに変身するだけの映画だと思っていたが、その周囲には復讐に燃えるビッグ・ダディ、その娘のヒット・ガール。マフィアのボスの息子として葛藤するレッド・ミストといった、それぞれの立場のドラマがあり運命が重なっていく点がユニークである。単なるバカ騒ぎに終始せず、背景や動機付けがありカタルシスを感じる構成にした、この辺りのバランス感覚は見事だ。

 すでにキック・アス2の製作が決まっているようだが、早くに撮影を開始しなければヒット・ガール役のクロエ・グレース・モレッツが成長してしまうのでは??と余計な心配をしてしまう。バナナマン日村にそっくりな(笑)レッド・ミストは完全に悪になってしまうのか等…続編も見所は多そうである。


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ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの無駄使い


 「ツーリスト」の特徴を述べるとなれば”古典スリラー”か”豪華スターの共演”か、いやいや”中途半端”という言葉が一番馴染むような気がした。終始張りつめた緊張感のある内容ではなく、時折ジョークも存在する。ゴージャスな衣装もあればパジャマ姿もある。ひと昔のサスペンスドラマのようで、現代風の音楽も挿入される。監督のせいかヨーロッパ映画のようで、資本はハリウッド。要は「ツーリスト」がどのベクトルを目指したいのかがイマイチ掴めなかったのである。その足場の不安定さは最後まで続くもので、映画が終わっても何か釈然としない想いに包まれる。今作がレンタル化されたときに、どのジャンルのコーナーに陳列すべきか迷うだろう。




*****以下、ネタばれ注意*****




 ジョニー・デップとアンジェリーナ・ジョリーの共演は素直に喜ばしいことだけに、作品の完成度や演出を思うと不憫に思えて仕方ない。「ツーリスト」は2回ほど物語が逆転する展開があるのだが、どちらも演出があっさり過ぎて驚きに欠けた。終盤の見せ場も会話のみであり警察の活躍がクローズアップされるだけ。アンジェリーナ・ジョリーの優雅な振る舞いは目新しいものだが、ジョニー・デップには美味しいシーンが少なかった気も…屋根の上をパジャマ姿で走る姿がジャック・スパロウ船長にしか見えなかった(笑)ラブシーンやダンスシーンもあるが、気分が高揚するような演出、スターのオーラが活かされていない見せ方もマイナスである。

 では「ツーリスト」をどのように楽しめば良いか。それは観客自身がツーリストになることだと思う。パリのカフェを眺め、列車の移動を楽しみ、ヴェネチアの街並みを堪能する。ボートからチェックインできるホテル・ダニエリ、そして高級スウィートルーム。非日常のセレブ気分を疑似体験することで映画代くらいはペイできるか。

 物語の展開はある程度予想はつくが、最初から順を追うと突っ込み所も多い。最初の列車のシーンでアンジェリーナ・ジョリーが”自分と体格の似た男性”を選ぶ箇所でジョニー・デップを素通りしていたら、ジョニー・デップ涙目。


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(2011/04/02)
ライアン・レイノルズ

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棺の中だけで90分


 目覚めたら棺の中というシチュエーション。「キルビル Vol.2」思い出させる。ユア・サーマンはパイメイ師匠から教わった拳法によりこの苦境を脱したが、ライアン・レイノルズは生身の人間だ。地上を見せることは無い、主人公以外の人物は誰も登場しない等、未曽有の映像体験を詰め込んだ実験映画とも言えるのが、今作「リミット」である。

 「オープン・ウォーター2」や「フローズン」などのいわゆるシチュエーションスリラーと「リミット」が決定的に違うのが、自分の置かれた状況までの顛末が不明だということである。そのため今作はパニックホラーの要素に加えサスペンスの色合いも強く感じる。地上と唯一の交信手段が携帯電話。機械の向こう側の相手が善人だろうが悪人だろうが、顔が見えないことで疑心暗鬼となり、また、自分が居る場所が分からないことも更なる不安と謎を煽っていた。もしも自分が同じ状況に巡り合わせたら…と考えるだけでゾッとする状態である。

この単純なプロットで90分もの間、集中力と緊張感を観客に途切れさせなかったのはカメラワークによる功績が大きい。狭い棺の中を時には俯瞰で、または全身を舐めるように見せるカメラワークは実に多彩で物語にリズムを与えていた。狭い棺の中でも躍動を感じさせるのはそのお陰だろう。




*****以下、ネタばれ注意*****




 「リミット」が興行的にも評論家からも支持を集めたのは、単なるスリラーに終わらせず社会風刺の味付けを盛り込んでいたからではなかろうか。電話をたらい回しにされたり、こちらが死にそうな状況なのに、労働契約解除を宣告される箇所はユーモアを踏まえての風刺である。アメリカという一国の体制と不況に喘ぐ社会、低所得者軽視を物語に絡め上手に問題点を炙り出している。エンドロールに行く際の刹那の驚き、そこから間髪与えずに流れる陽気な音楽とその後の笑い声。サスペンスをひっくり返しての転調劇はある種の快感である。主人公が助かる→絶望→やっぱり助かりそう→やっぱり絶望を何度も繰り返す後半のプロットも見せ場の連続だった。バッドエンドを選んだのも助かるよりも何倍も記憶に残る展開である。ラストで「ショーン・ホワイト」の台詞にびっくりしたが、その後のエンドロールの長さにも驚かされた。設定や舞台に関わらず映画作りには多くの労力を要するのだと痛感する瞬間である。


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