*****以下、ネタばれ注意*****
◆タクシーという舞台
車を運転していると、ものすごくリラックスした気分になる。なにかの記事で読んだのだが、新しい考えやアイディアが生まれる場所として、寝室に次いで車の中という項目が挙げられていた。それだけその空間は居心地が良く、発想の転換の場になり易いということなのだ。
人を殺し、次のターゲットまで移動しまた人を殺す、その繰り返しの映画「コラテラル」はタクシー車内が重要な舞台であり、緊迫した殺害シーンと相対して車内では、この上ない安息・安堵感が漂っている。それは車が物理的な移動装置という枠を越えて、ヴィンセントとマックスの精神を通わすことのできる唯一の空間になっており、その緩急を付けた演出も今作の魅力と言えるだろう。
殺し屋の発する言葉が真っ当に聞こえ、真面目に生きてきたタクシードライバーの意見は否定される、モラルの逆転現象も興味深いところだ。中盤にコヨーテがタクシーの前を横切り、そこでの両者の意識・呼吸が一瞬止まる素晴らしいシーンが用意されている。そのシーンも車中の出来事であり、2人の立場関係が微妙に入れ替わる重要なポイントでもあった。最終的にマックスはその空間を自らの手で破壊することでヴィンセントと対峙することになる。
◆殺し屋とタクシー運転手 2人のプロ
マイケル・マンの映画はその道のプロ同士がぶつかり合うという設定が多く、今作でもそのベースは変わらない。タクシー運転手のマックスはL.A.の道を熟知しており、目的地まで信号機が何個あるか、特定の時間帯でどの道を通れば最短で辿り着くかを把握しているプロだ。出発前にクロスワードパズルを解いていたり、車内をスプレーを使って掃除するなど神経質・職人気質な性格をちらりと見せるシーンは印象深い。
また殺し屋のヴィンセントは、どのような状況であっても依頼主から受けたターゲットを確実に殺害するプロである。路地裏でチンピラ2人を瞬時に撃ち抜くシーンは圧巻であり、ただならぬ人物であるということを思い知らされる。そんな彼の人間性が最も表れていたのは、4人目のターゲットを殺害するシーンだ。
大勢の一般人や警備がいるクラブ内でも臆することなく、敵を倒しながら前へ前へと進んでいく、そこに迷いや躊躇は一切無い。ヴィンセントが人を撃ち抜く時には、胸に2発、頭に1発という確実に獲物を仕留めるルールがあるのだが、4人目のターゲットを殺害する際には途中で弾が切れるものの、再装填してまでも頭を打ち抜いていた。そこに仕事に対する彼なりのプライドや哲学を感じたのだ。無論、2人のプロを描くマイケル・マンこそプロであり、なくてもよい弾切れの演出をあえて見せるのがファンの心理を掴む味付けとなっている。
◆電車内での対決
ラストで電車内に追い込まれたマックスが、ドアを挟んでヴィンセントとの銃撃戦に望むシーンがある。拳銃をろくに扱ったことのないタクシードライバーとプロの殺し屋、どう考えても後者に分があるように思えるのだが、おかしなことにマックスは無傷でヴィンセントは銃弾に倒れる。偶然なのか様々な可能性が考えられるが、2人の間で銃や弾の種類に違いがあったものと解釈するのが1番納得がいくだろう。
マックスが持っていた銃は横転したタクシーの残骸から拾った、それまでヴィンセントが使っていた銃であり、一方のヴィンセントはビルの警備員が所有していた銃を奪って使用していたのである。推測だが元々ヴィンセントが使用していた銃は貫通性の高い弾を装填してあり、警備員の銃は一般的なものでそこまで威力は見込めないもの。銃撃戦のシーンをよく観てみると、ヴィンセント側から撃った弾が電車内のドアを貫通していないようにも見える。
横転したタクシーから自分の銃を拾えなかったヴィンセント、そこが彼の運命の尽きだったのだろう。すべて憶測の話だが、劇中では銃の経緯を丁寧に描いており、一見あっけないラストシーンに思えた演出も実に練り上げられた見事な展開だと言える。
◆澱んだ空気のL.A.
タクシーの車内と同様に重要な舞台がL.A.の街だ。様々なアングルから街の状態を映しており、晴天ではなくどこか重く澱んだ空気を臭わせるのは、マックスとヴィンセントの非常に曖昧で危うい距離感や内面を暗示しているかのようだった。そのような映像はHDカメラを用いた夜間撮影の成果であり、他の映画とは一味違う臨場感を体感出来るものだ。「Ready Steady Go」や「Shadow on the Sun」などバラエティに富んだBGMも半日の物語を盛り上げる良質なものばかりである。
■関連作品■
キングダム/見えざる敵 ★★★ マイアミ・バイス ★★ヒート ★★★★M:I-3 ★★★
この映画、最近レンタルで観たばかりです。
私は「あっけないラスト…」と思ったんですが、
まさきさんの観方はやはり違いますねぇ!☆
単に自分が観るだけじゃなく、映画好きな人達の
感想を読むと、違った観方をしてるのが良く分かります。
まさきさんの感想は映画雑誌の評論を読んでるような
気分になりますよ!
ではまた☆