ノー・カントリー スペシャル・コレクターズ・エディション (Blu-ray Disc)ノー・カントリー スペシャル・コレクターズ・エディション (Blu-ray Disc)
(2008/12/05)
トミー・リー・ジョーンズハビエル・バルデム

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「奪われたものを取り戻そうとして、さらに失う。」


 信じられないタイミングで物語が終わった。エンドロールの字幕が頭に入らず、作品中で初めて聴いたかのような音楽を流し込みながら、心が震えているのを感じた。

 「ノーカントリー」には様々なメッセージが込められている。そのなかでも最も印象に残ったのは
「人間ってのはね、奪われたものを取り戻そうとして、さらに失う。結局は出血を止めるしかない。」
という台詞だ。傷の付近に注射器を射し、それらから泥のような血が流れ出すシーンがあるが、その光景と前述の台詞がぴたりと当てはまった。シガー(ハビエル・バルデム)という人間を卓越した存在、脅威の前に人はどのように抵抗しても無駄であるということ。繰り返す暴力の連続は、どちらかが血を抑えるまで、動きを止めるまで終わらないということなのだ。そのような不条理な出来事の繰り返し、世の中の乱れに無常を感じたのが保安官役のトミーリー・ジョーンズである。




*****以下、ネタばれ注意*****




 また、面白いことに作品中では、傷を負って若者に着ている上着を売ってくれと、お金を差し出すシーンがモスとシガーの両方にある。どちらも若者は服を差し出し、金を受け取り、立ち去るというものだが、これらの一連のシーンこそ、世の中の乱れを暗示しているものではないだろうか。血のついた金や助けを呼ばない若者の姿に嘆き、老いた保安官の居場所はこの国には無いのだ。

 「ノーカントリー」が巧いのは序盤で見せるだけのものは見せ、終盤では出来るだけ隠す演出にまわっているということだ。保安官の首を異常な形相で絞め殺し、高圧銃といういびつな武器で相手の額を撃ち抜く。シガーという脅威の対象を示すシーンは存分に描き、モスやその妻の最期はすべて省かれている。一番の旨味となりうる要素を打ち消してまで、伝えたかった語り口がコーエン兄弟にはあったのだろう。

 前半にアクション、スリラーを描き、後半に叙情を広げる。今作のような構成がこれまでの映画にあっただろうか。鑑賞する度に味が深まり、テキサスの広大な景色がいつしか人間の無常観という心象風景に摩り替わりそうである。


■関連作品■
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プラネット・テラー in グラインドハウス ★★★

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テーマ:映画感想
ジャンル:映画
コメント
観るしかない!
mixiの足跡からお邪魔しました☆

コーエン兄弟最高傑作と呼び声の
高いこの作品、アカデミー賞受賞
したこともあり、観たい作品の1つでしたが、まさきさんの感想を拝読してより一層、観たくなりました!

コーエン兄弟マジック、健在のようですね♪
2008/03/23(Sun) 01:46 | URL | すず | 【編集
是非、鑑賞を!!
コメントありがとうございます!!

これまでコーエン兄弟の作品やアカデミー作品賞の作品に、それほど感銘をうけたことはなかったのですが、「ノーカントリー」は本当にはまりました。

劇場上映されている場所が限定されているようですが、是非、映画館で鑑賞してみてください。
2008/03/23(Sun) 11:07 | URL | > すずさんへ | 【編集
観ないと死ねない
コーエン兄弟の作品中で一番かと問われれば。。。そうかもしれない!でも、アカデミーを狙った感は否めないかも。アメリカの腐った部分えお描きながら、それは日本や他の国にも当てはまる普遍性のある作品だと思いました。

でも、あんまりにも衝撃を受けて昨日眠れなかったです。。。
2008/03/23(Sun) 16:12 | URL |  | 【編集
衝撃的でしたね。
コメントありがとうございます。

衝撃を受けたというのは、自分も同じでエンドロールのときにピクリとも体が動かなかったですね。メッセージの伝え方が秀でているように思います。

コーエン兄弟の作品ではやはり「ファーゴ」が「ノーカントリー」と近いかもしれませんが、映像テクニックと言い、今作が集大成であり傑作だと感じました。
2008/03/23(Sun) 16:22 | URL |  | 【編集
mixi足跡から来ました。
コーエン兄弟は究極の確信犯かと。
映画好きや評論家の紐解きたいツボを心得ていて、
尚かつ今回は社会問題も絡めてきたあたり、、、
あの突き放した演出も…うなる作品でした。

2008/03/23(Sun) 23:58 | URL | カナえもん | 【編集
もう一度、鑑賞したいですね。
こんばんは!!コメントありがとうございます。

僕もコーエン兄弟は批評家のツボを突くのが巧いなと思っていました。そして今作は、全てのバランスが良かったですね。

鑑賞して数日経ちますが、また観たくなりますね。保安官の台詞をもう一度、ゆっくりと聞きたいなと思いました。
2008/03/24(Mon) 00:23 | URL | >カナえもんさんへ | 【編集
mixiの足跡からお邪魔しました。

たしかにいわれてみれば、ノーカントリーは、
「人間ってのはね、奪われたものを取り戻そうとして、さらに失う。結局は出血を止めるしかない。」
というこのセリフにメッセージが集約されているかもしれませんねー。
まさきさんの考察、いろいろ納得させられました。
2008/03/25(Tue) 07:47 | URL | ベップ | 【編集
観ました♪
こんばんみ、まさきさん♪かいちゃんです。\(o ̄∇ ̄o)ハーイ
今日、観てきました。(´ε`)うふ
自分のブログには、めっちゃひどいレヴューをアップしました。けど、帰宅後に今作の原題を知ってメッセージの意味が分かって、自分ってまだまだ映画を見る目が無いんだなって自信を無くしてしまいました。(T_T)
後から考えると、とても凄い作品だったんだなって思いましたね。(゜ε゜)ウーム
すべてはラストのトミー・リー・ジョーンズのなんとも言えない表情が物語ってましたね。原題そのまんまの表情でしたよね。(´ε`)うふ
2008/03/25(Tue) 22:24 | URL | Kaichang | 【編集
こんばんは!!
コメントありがとうございます。

「結局は出血を止めるしかない」という台詞のときに、物語が広がった気がしました。安直な考えですが、暴力による報復の連鎖、アメリカの現状等を想像しました。

伝えたいことは最近の時流にのったものですが、語り口が見事でしたね。
2008/03/25(Tue) 23:39 | URL | >ベップさんへ | 【編集
トミー・リー・ジョーンズ!!
再びコメントありがとうございます!!

アクションとして観るのも楽しいですが、その背後に隠れているメッセージが深いですよね。鑑賞した人によって、様々な捉え方が出来るのも良いですね。トミー・リー・ジョーンズも久々にはまり役だったように思います。
2008/03/25(Tue) 23:43 | URL | >かいちゃんさんへ | 【編集
はじめまして☆
確かにあのセリフは印象的でした。感想を読ませてもらって改めて奥深さが理解できました。
もっと映画見て監督や俳優の意図するものを感じたいと思うようになりました。
もう一度見たいです!!
2008/04/01(Tue) 23:30 | URL | じろー | 【編集
記憶に残る台詞。
こんばんは!!コメントありがとうございます。

「ノーカントリー」は観るたびに、味が出そうな映画なので繰り返し、鑑賞することで印象が変わりそうです。

アカデミー作品賞を受賞したのに、まだ公開されていない県も多いみたいですね。
2008/04/02(Wed) 01:14 | URL | >じろーさんへ | 【編集
はじめまして
mixiの足跡から来ました。これはコーエン兄弟の久々の傑作ですね。というか、最近観た映画の中では一番充実していた気がします。
2008/04/06(Sun) 09:01 | URL | ジャンゴ | 【編集
はじめまして!!
おはようございます。コメントありがとうございます。

ジャンゴさんの言うように、コーエン兄弟の中では、僕は1番の作品だと思いました。最近の映画の中でも面白いほうですね。
2008/04/06(Sun) 09:05 | URL | >ジャンゴさんへ | 【編集
今年のベストの一本ですね
お久しぶりです。
コーエン兄弟の映画は体質に合わないものがあるのですが、これは面白かった。
不条理な出来事の繰り返し、世の中の乱れに無常を感じたのが保安官役のトミーリー・ジョーンズである。

まさにその通りですね。
アメリカの心の原点である、テキサスの荒野やモスの後姿に重なる現代的なカウボーイ像が、麻薬、金、猟奇犯罪というアメリカの病理によって、ここまでも侵食されている後悔と惜別の情、そして現実の厳しさが見事でした。冒頭のテキサスの荒野に暗雲が立ち込める遠景もまた鳥肌もの。ただ、小説の引用など幾分日本人には分かり難いものもありますね。
2008/04/06(Sun) 12:28 | URL | ばあこふ | 【編集
お久しぶりです。
コメントありがとうございます。

今作は西部劇とも言われており、古くからのアメリカを象徴する画がいくつも登場しますね。その光景が余計に無常観を煽りました。

2回目に鑑賞するときはテキサスの荒野が別のものに見えてきそうです。
2008/04/06(Sun) 14:06 | URL | >ばあこふさんへ | 【編集
はじめまして☆
mixiの足跡からお邪魔します♪

終盤が衝撃的すぎてラストのトミー・リー・ジョーンズの語りが全く聞けなかったのが悔やまれます。。
もう一度観なきゃですね!

しかしすばらしいレビュー!
2008/04/10(Thu) 04:18 | URL | ぼん | 【編集
最後の台詞。
コメントありがとうございます。

あのトミー・リー・ジョーンズの台詞は、激しいアクションシーンがひと段落ついたところでしたから、気をぬいてしまいますよね。

あの夢の話と、物語の綴じ方は好きですね。
2008/04/10(Thu) 09:39 | URL | >ぼんさんへ | 【編集
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2008/03/22(Sat) 21:12:19 |  極私的映画論+α
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2008/03/29(Sat) 16:37:08 |  NiceOne!!