「キューブリックはキャラクターを描かない」という言葉を耳にしたことがあるが、その言葉に最も即した作品が「アイズ・ワイド・シャット」ではないだろうか。トム・クルーズ、ニコール・キッドマンの2大スター夫婦共演(当時)も話題となっていたが、2人の存在がまったく頭にはいらないほど影が薄かった。
その原因のひとつに完璧主義といわれていた、キューブリック監督の徹底した映像美が挙げられる。どのシーンを切り取っても、幾何学模様を眺めるような規律があり、背景にあるフィラメントの灯りや、夜を表すブルーの光が、その前にいる人物の存在を打ち消しているように観えた。屋外でのシーンも立方体の部屋に居るような感覚に陥り、ステディカムを用いた流動的なカメラワークも、カメラの動きばかりを注視してしまう。また監督作品には珍しく、大スターを起用したことも作品をコントロール出来なかった要因になったのではないだろうか。
このようなテクニカルな手法は人物像を打ち消してしまうものなのか、それともトム・クルーズ、ニコール・キッドマンがその技法に属さなかったのか、いずれにしてもキューブリックの遺作としては惜しい出来となっている。
物語自体は謎が多く、その世界に突然放り込まれ、突然突き放されるような展開になる。起承転結の転で終わる印象であり、あまり深く探る気持ちにならない。異形の地ともいえる屋敷での乱交パーティーや、黒装束と仮面の異様さだけが鑑賞後も痛烈に記憶に焼きついたくらいだ。
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