アクション映画というジャンルに限定して、その映画史を西暦の10年単位で区切った場合、1980年代には「インディ・ジョーンズ」「コマンドー」「ダイ・ハード」、1990年代には「ターミネーター2」「ザ・ロック」のように、それぞれの時代を代表する多くの傑作が存在していた。しかし2000年以降、これらの作品群に迫るアクション映画がはたして存在しただろうか。「スター・ウォーズ」の新シリーズや「マトリックス」シリーズなど新世代を予感させる映画はあったものの、前述の作品の興奮には届いていない気がしていた。
昨今のCG技術の発展によって描かれた空想空間も悪くはないのだが、そこに目が行き過ぎてもうひとつ感情の領域に踏み込めない部分があったのだ。自分自身が色々な映画を観すぎたせいか、年齢を重ねアクション映画に感動できなくなったのか、などとも思っていた。そんなとき、昔感じたあの興奮を思い起こさせた作品こそが「ダークナイト」である。2008年7月現在、既に数々の全米興行収入の記録を塗り替えているが、評価から見ても2008年を象徴する作品であり、また2000年代をも代表するアクション映画になるのではないだろうか。
アメコミヒーローとはいえ勧善懲悪という見地を鈍らせる、複雑で奥深いストーリーと激しいアクションの連続。その「ダークナイト」の魅力をいくつか挙げてみた。
*****以下、ネタばれ注意*****
◆狂気のジョーカーと2人の騎士
「バットマン ビギンズ」の続編にジョーカーが登場し、その役をヒース・レジャーが演じるということを耳にしたときに、それは絶対に辞めた方がよいと思っていた。コミックのなかでも特に人気のある悪役だが、89年の「バットマン」の際にジャック・ニコルソンが見事に演じている過去があったからだ。しかし、ダークナイト版ジョーカーのスナップ写真や予告編が公開され始めると、その想いが間違いだったことに気付かされる。
高層ビルの闇間にすっと降り立つシルエット、「Let's put a smile on that face」(口が裂けるほど笑わせてやる)など台詞のひとつひとつに圧倒され、甲高い笑い声に心が凍りついた。ジャック・ニコルソンのコミカルなジョーカーとはまた一味違うもので、その振る舞いは狂気そのものである。
ヒース・レジャーの異常なまでのキャラクターへの入れ込みが新たなジョーカーを生み出し、結果としてそれが「ダークナイト」の世界観と成功を決定付けたと言える。若くして遺作となってしまったことは衝撃であり残念でならない。
また、バットマン"暗黒の騎士"をクリスチャン・ベール、ハービー・デント検事"光の騎士"をアーロン・エッカートがそれぞれ好演。バットマン、ジョーカー、ハービー・デント(トゥー・フェイス)の3者の主張がぶつかり合い、交錯する。素晴らしいキャラクター達が見せる躍動は、高い緊張感を保持したまま物語の最後まで疾走していた。
◆難度の高いアクションシーンの創造
アクション映画のなかで、チェイスシーンと爆発シーンが見所としてピックアップされることが多い。今作ではこれら2つを非常に難度の高い次元で表現している。
チェイスシーンでは、バットモービルからバットポッドが登場した瞬間に座席に前のめりになって叫びそうになったほどだ。ジョーカーは護送トラックに向けロケット弾を放ち、ヘリコプターは墜落、大型トラックは横転ならぬ縦転、そのなかバットポッドはゴッサムシティを駆け巡る。スピード感と激しい攻撃の応酬は劇中で最もテンションの上がるシークエンスだった。
爆発シーンは近年稀に見る量であり、それぞれの爆破の規模が大きく驚いた。過去に「ダイ・ハード」におけるナカトミビル爆破、「ターミネーター2」でのサイバーダイン社の爆破などアクション映画を彩る名シーンが存在したが、今回の総合病院の爆破シーンはそれに並ぶとも劣らない見事なものである。
爆発の直前に起爆装置を連打するナース姿のジョーカーも面白く、少し間を空けた後の崩壊ぶりが素晴らしい。最近は建物や爆風をCGで補完することが目に付くが、今作は"本当にやってしまったね"と匂わせる思い切りの良さが気持ちいい。勿論、VFXも使用しているだろうが、それを感じさせないリアル志向と空撮の多用で空前絶後の破壊を表現していた。
◆バットマンからダークナイトへ
前作「バットマン ビギンズ」はバットマンの誕生を描いたものだったが、彼の立場や存在する意義を見据えた場合、今作こそが本当の誕生物語だったのではないだろうか。
バットマンの力というものは、相手に恐怖心を植えつけるところにあった。しかしジョーカーという新たな脅威は、お金や地位といったものに興味はなく、混乱を招くことが目的のアナーキストであり恐怖を伝えることはできない。それどころか恐怖を利用し、ハービー・デントや市民を狂気に染める様子はバットマンのそれと紙一重であり、2人は似た者同士なのである。相手がいるからお互いが存在する。この因果関係が正義心を歪め、更なる不安を煽っていた。
またバットマン自身が正体を明かさなかったことが、レイチェルの死、そしてトゥー・フェイスの誕生に繋がってしまい、またもや彼の正義というのが危うくなっていく。唯一、救いだったのはフェリーの爆破がストップされたことだ。バットマンはその市民の行動に微かながら希望を見い出し、トゥー・フェイスの罪を被ることを決意する。
法で相手を裁き、正しく表に立った光の騎士ではなく、誰からも称賛されず、誰とも交われない存在。暗黒の騎士=ダークナイトとなり走り去るその姿に感動さえ覚えた。それにしても、なんとも暗く哀しいストーリーだろうか。レイチェルの心が離れそして殺され、ハービー・デントを失いトゥー・フェイスを殺害、フォックス(モーガン・フリーマン)に見離され、市民からは憎しみを受け警察に追われる。沈黙の使者を貫き、光の騎士を称えつつ自らは闇に消える。これこそバットマン独特の魅力・美学であり本当の意味での誕生だと思う。
これほど濃密な映画を築き上げたクリストファー・ノーラン監督だが、脚本として常に監督のバックアップをしているジョナサン・ノーランの功績も大きいだろう。ノーラン兄弟の代表作は「メメント」だったが、「ダークナイト」はそれを塗り替える可能性もある、恐ろしいパワーを秘めた映画だ。
■関連作品■
ダークナイトに続編があるとしたら…??バットマン ★★★★バットマン リターンズ ★★★バットマン フォーエヴァー ★★バットマン&ロビン/Mr.フリーズの逆襲 ★バットマン ビギンズ ★★★★メメント ★★★★★プレステージ ★★★★ブロークバック・マウンテン ★★★
グッドタイミングですが、まだ観てないので結局読めない。
もう観られたんですね。いいなぁ…
ダークナイトはアメコミ読者待望のタイトルですよね。期待大です。楽しみにしてます。