アクト・オブ・キリング オリジナル全長版 2枚組(本編1枚+特典DVD) 日本語字幕付き [Blu-ray]アクト・オブ・キリング オリジナル全長版 2枚組(本編1枚+特典DVD) 日本語字幕付き [Blu-ray]
(2014/12/03)
不明

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ドキュメンタリー映画のひとつの到達点


 常識を覆す映画だ。「殺人を犯した当人が、カメラの前で嬉しそうにその様子を語る」という行為を目の当たりにするからである。しかも針金を首に回し「こうやって殺したんだ」と流暢に話す様は、”人を滅すること=悪”という、今日まで当然に思えた倫理や規範を飛び越えて来そうで心が揺らいだ。

 なぜ、このような事態になったのか??初見時はそこまでの経緯をうまく飲み込めなかったのが正直なところ。鑑賞後インターネット等で、ある程度の知識を得て咀嚼出来た部分はあった。以下、「アクト・オブ・キリング」の要点を。

・1965年、インドネシアでスカルノ大統領親衛隊の一部がクーデターを起こし、陸軍の高級将校6名が殺される。通称9・30事件といわれるが、詳細は現在も不明瞭である。
・9・30事件によりスハルト少将が事態の収拾にあたる。事件の背後には共産主義者が暗躍していたとされ65年~66年の間にインドネシア各地で100万、200万人といわれる人々を虐殺。
・スハルトによる新体制が確立された後の1973年、この虐殺のなかで共産主義者の命を奪った者に対しては、法的制裁を科さないことが検事総長により決定される。
・1998年にスハルトは大統領辞任を宣言するが、その当時のトラウマや思想、社会構造は現在もインドネシアに根付いている。
・ジョシュア・オッペンハイマー監督は当初、この虐殺の被害者側に証言を求めたが撮影の度に軍に阻止され、これを断念。そのようななか、生存者の1人から加害者を撮影してほしいと依頼され実行してみると、自発的に殺人を再現し始めた。

 上記のように人を殺した側が正式に罰せられないこと、当時の思想や体制が継がれているためにカメラの前で悠々と語ることができたのである。この辺りは、映画の冒頭の字幕で最小限の情報のみが流れるため、イントロダクションが掴み難く混乱する要因になっていたと思う。


9・30 世界を震撼させた日――インドネシア政変の真相と波紋 (岩波現代全書)9・30 世界を震撼させた日――インドネシア政変の真相と波紋 (岩波現代全書)
(2014/03/19)
倉沢 愛子

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 「アクト・オブ・キリング」で最も優れている点は、加害者に殺人を”語らせる”だけではなく”演じさせる”ことに踏み入ったことだ。しかもその劇中劇がチープ!!冒頭と終盤の奇妙なダンスシーン、女装するヘルマン、極めつけはアンワルの見る悪夢に登場する悪魔だ。このチープさがブラックな笑いを運ぶ要因に。重い重い内容に鑑賞を続けさせる意欲と、映画本来のエンターテイメント性が入り雑じり、それまでにない味を醸し出している。悪魔登場シーンは白い煙と相まって「マルホランド・ドライブ」におけるクラブ・シレンシオに座っているかのよう。映画も虐殺も全ては幻であり悪夢であってほしいと願うが、エンドロールおける大量の”匿名(ANONYMOUS)”の波が今なお続く現実を突き付けている。




*****以下、ネタばれ注意*****




 「ゆきゆきて、神軍」で奥崎謙三氏が、部下射殺事件の真相を話さない元隊員に殴りかかるシーンでは、見てはいけないものを見たという嫌な気持ちになった。本作でもアンワルの隣人スルヨノが、自分の継父が殺された経緯を、全員の前で独白する箇所でも同じようにばつが悪かった。そしてラストである。アンワルの嘔吐では率直にこの人にも、良心の呵責があったのかとホッとすると同時に、延々と続くように思われる地鳴のような音と嘔吐に、またしても見てはいけないものを見てしまったという、恐ろしい気持ちに包まれた。背中を丸め階段を下りる姿に、作品前半で見せた陽気さは一切ない。

 演技ではない、人が一生のうちに1度見せるかどうかの、行動・行為・感情の極みをフィルムに焼き付け、それを不特定多数の他人が傍観する。これこそがドキュメンタリー映画のひとつの到達点といえないだろうか。傍観の後になにを思うか。公平な人権、公平な思想、公平な議論、、、ANONYMOUSの文字が消えゆく世界を願うばかりだ。
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